─ “見えないロゴの中にあるタイの技術力” ─
※本記事は「タイのクロコダイル産業史|革製品製作の始まりから現在までの歩み」で紹介されている“海外ブランドによるOEM採用の歴史”を詳しく掘り下げたものです。
実はあのブランドも──“タイ製クロコダイル”という誇りが、世界のラグジュアリーを支えている

■ あなたの財布が、すでに「タイ製クロコダイル」かもしれない
「これは日本製のほうが安心」
「高級ブランドなら、ヨーロッパの工房で作っているに違いない」
そう信じていませんか?
確かに、日本やヨーロッパには歴史ある革産業が根付いています。
しかし今や、“タイ製”が世界のトップブランドの革製品を支えているのが現実です。
それは“低コストの代替生産”ではありません。
むしろ、高度な職人技と信頼性の高さが評価された結果としての採用なのです。
今回は、タイのクロコダイル革製品が、
いかにして海外の有名ブランドにOEM(相手先ブランド名での製造)として採用されるまでに至ったのか、
その知られざる歴史を紐解いていきます。
■ きっかけは1980年代──養殖と品質管理の進化
1980年代の養殖技術と品質管理の進化は、タイが世界に認められる革供給国となる転機でした。この背景は、第13回|養殖と産業の黎明期でも詳しく解説しています。
1980年代初頭、世界的な野生動物保護の潮流の中で、
CITES(ワシントン条約)が本格運用されるようになります。
それまで“野生捕獲”が中心だったワニ革市場において、
合法的な「養殖」体制の確立が求められるようになったのです。
このとき、いち早く対応したのがタイでした。
東部チャチューンサオ県などで、政府認定のクロコダイル養殖場が急速に整備され、
皮革の品質が飛躍的に向上。
- 養殖水準の高さ
- 輸出用のCITES登録体制
- 皮膚の傷が少ない原皮の安定供給
これらが評価され、ヨーロッパ・アメリカの有名ブランドが原皮調達先としてタイを選ぶようになります。
■ 1990年代:下請けから“仕立て”への進化
当初、タイはあくまでも「原皮供給地」としての立ち位置でした。
しかし1990年代後半から、事態は大きく変化します。
きっかけは、OEM生産の拠点をアジアに移そうとする欧米ブランドの戦略でした。
- 日本やイタリアでの製造コストが高騰
- 職人の高齢化と人材不足
- アジア市場の拡大による現地生産志向
この流れを受けて、タイ政府は工業省を中心に、
レザー縫製技術の高度化・工房の法人化支援を開始。
このころから、タイ国内の一部工房では以下のような変化が見られます:
- ヨーロッパから職人を招き、手縫いやコバ磨きの技術研修を実施
- 最新の裁断機や縫製設備の導入
- ISO品質管理認証の取得
こうして、**“ただの下請け”ではなく、“欧州基準を満たす製品を完成させる技術者集団”**としての地位を確立していきます。
■ 2000年代:一流ブランドがタイを“選んだ”理由
2000年代に入り、タイのクロコダイル製品は“隠れた主役”としての立場を強めます。
- パリやミラノのラグジュアリーブランドが、バッグや財布のOEM先にタイを指定
- 一部ブランドでは、「特注ラインはバンコク工房でしか対応できない」と明言
- 完成品として輸入されたタイ製クロコダイル財布が、日本の高級百貨店で“欧州ブランド名”で販売される
なぜ、それほどまでにタイの製品が信頼されたのか?
その理由は、**「品質が安定している」「納期が正確」「コミュニケーションが取れる」**という、
いわば「日本的な真面目さ」にあります。
■ タイの“無名工房”が支える、世界の名品
表舞台に立つことは少なくとも、タイの無名工房は高級ブランド製品のクオリティを支える“縁の下の力持ち”です。この職人技の価値は、第9回|職人文化と技能継承とも密接に関係しています。
ここで一つ、興味深い話を紹介しましょう。
私たちが訪問したバンコク郊外の工房は、創業30年。
オーナーは元・欧州ブランドの縫製部門責任者です。
工房に飾られていた試作品の一部には、
あの誰もが知る某ブランドのロゴが刻印されていました(もちろん非売品です)。
しかし、オーナーはこう語りました。
「私たちは“名を売る”ためにやっているのではありません。
大切なのは、“技術を伝える”ことと、“信頼を続ける”ことです。」
この工房では、年間1,000点以上の高級財布・バッグが海外に輸出されていますが、
そのほとんどが“他社ブランド名”で世に出ています。
それでも、職人たちの手は妥協を許しません。
見えない場所にこそ、職人の誇りが宿っているのです。
■ OEMは“模倣”ではなく、“信頼”の証である
OEMと聞くと、「安く大量に作る手段」と誤解されがちです。
しかし、クロコダイル製品においてOEMが成立するには、厳しい条件があります。
- CITES取得済み原皮を使う
- 職人が部位選定・裁断・縫製を熟知している
- ブランド独自の基準に沿った構造で仕立てられる
つまり、「技術」「管理」「信頼」の三位一体がなければ、
高級ブランドはOEMを委ねません。
タイは、これを30年以上かけて実現してきました。
だからこそ、ロゴがなくても“本物を見抜ける目”を持つ人たちが、
今、あえて“タイ製”を選ぶようになっているのです。
■ 日本市場にとっての意味──選ぶべきはロゴではない
ブランドのロゴではなく、“作り手の誠実さ”を選ぶという意識は、第32回|文化の象徴としての財布に込められた価値観とも深く重なります。
かつての日本市場は、「海外=高級、アジア=安価」という単純な構図が支配していました。
しかし、いまや“見る目”を持ったバイヤーや顧客は、以下のような視点で製品を選んでいます。
- どの工房で、誰が作ったのか
- 原皮の質と流通ルートが明確か
- 加工や縫製に“個性”と“責任”があるか
こうした基準に照らしたとき、タイのクロコダイル製品は、
もはや“代替品”ではなく、“選ばれる製品”として確かな地位を築いています。
最後に
高級ブランドの名前に隠れている“本物”の価値。
それは、職人の手、養殖の現場、縫製の技術、そして“見えない努力”に宿っています。
私たちは、そうした“無名の誇り”を持った老舗工房と提携し、
彼らの技術を、日本のお客様に**“ロゴに頼らず語れる一品”**としてお届けしています。
- 「ブランドに頼らず、確かな物を選びたい」
- 「自分の審美眼で、本物を見抜きたい」
- 「背景を語れる財布を持ちたい」
そんな想いをお持ちのあなたにこそ、
“タイ製”の真価を、ぜひ感じていただきたいのです。
タイのクロコダイル産業の全体像を、もっと広く知りたい方へ──
本記事は「タイのクロコダイル産業史|革製品製作の始まりから現在までの歩み」にて取り上げている“海外ブランドによるOEM採用の歴史”に関連した内容です。
