はじめに
メタリックは“派手に塗る”ための仕上げではありません。
稜線の白を補助し、視線を止める一点光として使うのが実務的です。
大きな面を金属色で埋めると、立体の陰影(彫りの価値)が消えます。
ここでは、下地→密着→塗り順→境界処理→保護→撮影までを通し、箇所を絞った微光(ピンライト)で“効かせる”方法に絞って解説します。
メタリックの種類と使い分け(役割で選ぶ)
見栄えに大差があっても、工程の相性はシビアです。
まずは樹脂系の相性(溶剤/水性)を揃えること。
光の粒径が小さいほど繊細に、粗いほど派手に見えます。
- 要点(2割の箇条書き)
- 水性アクリル系メタリック:扱いやすい・微細粒子・細部の点光向き
- 溶剤系メタリック:強い発色・密着良・にじみ事故に注意
- 箔(ホット/コールド):線・面のエッジが最も綺麗。限定箇所に
- メタリックパウダー+バインダー:ドライブラシで“粉の光”を置く用途
- メタリックペン(油性細字):ピンホール修正・レタリングの極小点
下地と密着:にじみ・剥離を起こさない準備
多色染めやアンティークの上にメタリックを置くなら、下地を固定してから。
乾燥の浅い上に金属顔料を重ねると、剥離/にじみ/曇りが起きます。
- 下地の定石
- 染色→アンティークを線方向拭きで整える
- 完全乾燥(最低数時間)
- 薄いレジスト(抵抗剤)で“地”を固定(艶を上げすぎない)
- 端革で同配合の密着テスト(爪で軽く擦り、色移り/剥がれチェック)
光らせたい“点”だけにレジストを避けるのも手ですが、にじみ耐性が落ちます。
基本は地を先に安定させ、メタリックは点で置いても乗る状態を作ります。
設計思想:面ではなく“点・線・稜線拾い”
カービングの価値は立体(陰影)。メタリックは陰影を“補助”する役。
設計段階で点(芯・瞳・ピリオド)/短い線(稜線)/細い帯(外周)のどれに使うかを決めます。
主役の外周1.5〜2mmは明帯として死守、白い島1〜2mmを1つ入れると、金属光が過剰でも呼吸できます。
- 配分の目安
- 画面のメタリック総面積=1〜5%に抑える(小物で1〜3%推奨)
- 60/30/10(中明/中暗/明)の“明10%”のうち、2〜3%を金属光で置く感覚
- 反対色の金属(例:金×寒色)は白帯0.3〜0.5mmで緩衝
塗り順の原則:明→暗→金属→アンティーク再整→トップ
順番は結果を大きく左右します。金属は上に置く。
アンティークを最後に“線方向で軽く”当て直すと、金属のギラつきが落ち、線が読めます。
- 染色(面):明→中→暗で温度を決める
- カービング仕上げ:ベベル→ハーフムーン→ビーディング→薄BG→(必要なら)シャドウライン0.3mm
- アンティーク(一次):線方向拭きで“細い黒”を残す
- メタリック:点・稜線・箔の順で最小面積
- アンティーク(微調整):線方向にごく薄く、金属の縁だけ落ち着かせる
- トップ:半艶(サテン)で統一。グロスは反射が暴れやすい
テクニック集:点・線・帯の置き方
点(ピンライト)
花芯・瞳・レタリングのピリオドなどに極小点。丸筆0/メタリックペン/爪楊枝の先で置く。
強すぎたら、ドライ綿棒で“点拭き”して光量を1段下げる。
線(稜線拾い)
渦や葉の“山”側にドライブラシで1〜2ストローク。
筆は乾き気味・塗料は極少量。方向は骨格の流れと平行、交差角15°以内。
線が太ったらレジスト薄塗り→アンティーク薄で馴染ませる。
帯(外周・文字外周の細帯)
外周2〜3mmの明帯の“内側0.3〜0.5mm幅”にごく薄く。連続で塗らず、短い区切りで置き、つなぎ目をハーフムーン(弱)でならすと自然。
箔(フォイル)を使う:最小面積・最小温度差
箔は綺麗に決まる分、強すぎる傾向がありますので、レタリングの頭文字・家紋風の小円・小花の花芯リング程度に絞ります。
- 小さな規則
- ホット箔:エッジが最もシャープ。低温短時間で試し打ち→温度/圧を上げる順
- コールド箔(接着剤):塗りすぎない。転写は一点ずつ
- 箔の端は“角を作らない”(極小のRをつける)→光が鈍く馴染む
- 箔の外側に白帯0.3mmを残し、曖昧化3列へ渡す
メタリック×モチーフ別の置き方
フローラル
花芯=点、稜線=ドライ1ストローク。葉の折り返しは山だけ拾い、谷に入れない。
背景へは入れない(濁る)。
相性:ライトゴールド/ホワイトゴールド/ロゼ。暖色系の花ならロゼが馴染む。
レタリング
交差白抜けを守り、カウンター内浅で読み優先。頭文字の縁に0.3mmの線光、ピリオドに点光。面で塗らない。
相性:ホワイトゴールド/シャンパン。文字色より1段低彩度の金属が安全。
幾何・和柄
交点に白窓。七宝は3×3ブロックで交点だけ微光。麻の葉は中心点のみ。全面金属は厳禁。
相性:淡金/ニッケル調。低彩度×浅打ちの原則を継続。
フィギュア(動物)
瞳の白点+稜線ドライ1で十分。嘴や爪に極短の線光を1本。背景は金属なし。
相性:ホワイトゴールド/ニッケル。冷たさで清潔感を出す。
配色ルール:金属は“色”ではなく“光”として数える
多色染めで支配60/副次30/アクセント10を決めたら、メタリックはアクセントの一部へ。
アクセント中の20〜30%を金属に置き換える感覚(例:アクセント10%のうち2〜3%を金属、残り7〜8%は高明度色)。
- 失敗回避
- アクセント過剰→金属を半分に、残りは明色の“点”へ置換
- 金属×反対色の直突き→白帯0.3〜0.5mmで分離
仕上げ(トップ&保護):艶の統一で“品”を作る
半艶(サテン)で統一すると、金属のギラつきが整います。艶の混在(マット地にグロス金属など)は写真で破綻しがち。トップは薄塗り複数回、角・折れはさらに薄く。
- 注意
- 溶剤×水性の逆流事故に注意(端革で必ずテスト)
- 乾燥中は防塵カバー。金属粒子に埃が絡むと曇る
撮影:金属を“ハイライト”にとどめる
斜光45°×半艶で、金属は“点の白”、彫りは“線の白”。正面フラット光はギラつき=情報の破壊。600pxサムネで主役→出口の順に読めるかを最終判定とします。
- セット
- 背景は無彩色(明度N4〜N6)
- 金属点が2〜3箇所以上見えるなら過剰を疑う
ケースレシピ(3本)
A:一輪フローラル+ライトゴールド
工程:染→アンティーク→レジスト薄→花芯に点光→花弁稜線にドライ1→線方向再拭き→半艶。
狙い:花芯の一点で視線を留め、稜線は“気づくかどうか”の微光。
B:レタリング頭文字+ホワイトゴールド箔
工程:3ガイド→主線細深→交差白抜け→箔は縁0.3mm帯のみ→線方向再拭き→半艶。
狙い:読み>装飾。面の箔は使わない。
C:七宝3×3ブロック+ニッケル微光
工程:低彩度で浅打ち→交点を点光→曖昧化3列で唐草へ→半艶。
狙い:幾何は“空気”。光は交点だけ。
7分ドリル(端革で“光量”だけ決める)
1分:染→アンティーク→レジスト薄の地を作る。
2分:点/線/帯をそれぞれ3通りの濃度で試し、ドライ綿棒で“減光”の感覚を掴む。
2分:白帯0.3mmと曖昧化3列で金属の端を馴染ませる。
1分:半艶トップ→600pxサムネで過剰チェック。
1分:角度テスト(斜光±10°)でギラつきが暴れないか確認。
- 覚え書き
- 金属総面積は1〜5%に制限
- 点→線→帯の順に難度上昇。まず点で合格を取る
- 線方向拭きで金属の“輪郭光”を整える
よくある失敗 → その場で直す
ギラつき過多:線方向に再拭き→薄アンティークで落ち着かせる→それでも強ければトップ前にドライ綿棒で点減光。
剥離:乾燥不足か相性不良。完全乾燥→レジスト→別樹脂系に切り替え。
にじみ:地が未固定。レジスト薄→金属は点のみから再構築。
主役が沈む:金属を半減、明帯+0.5mm、背景1段落とす。
写真で白飛び:光量を-1EV、斜光45°固定、偏光フィルタ(可能なら)。
まとめ
メタリックは“光の設計”のための小道具です。
- 面ではなく点・線・細帯に限定し、総面積は1〜5%。
- 染→アンティ→金属→微調整→半艶トップの順。
- 白帯0.3〜0.5mm・曖昧化3列・線方向拭きで縁を馴染ませる。
- 最後は600pxサムネ×斜光45°で過剰判定。
この手順を守れば、メタリックは“うるささ”ではなく、作品の品位を上げる一滴の光になります。
注釈
[注1] 総面積1〜5%は小物基準。面積・用途に応じて小物=1〜3%/ロング財布=〜5%を上限に。[注2] 相性テスト:溶剤系×水性系の重ねは事故源。端革で密着・にじみ・艶ムラを必ず確認。
[注3] 白帯0.3〜0.5mmは反対色・金属の緩衝帯。交差白抜け(レタリング)と併用で読みを守る。
[注4] 曖昧化3列=ハーフムーン(弱)→ビーディング→薄BG。金属の“切れ端”を階調化(第63・69・99・100回参照)。
[注5] 撮影条件:斜光45°×半艶×無彩背景。600pxサムネで主役→出口の順に読めるか。白飛びは-1EVと線方向再拭きで抑える。
