はじめに
はっきり言います。レーザーは「楽をする道具」ではありません。
正確さと再現性を担当し、手彫りは質感と奥行きを担当します。
役割を分けるだけで、同じ図案でも仕上がりは別物になります。
機械で輪郭を整え、人の手で呼吸を入れる。
ここでは、設計の考え方からデータ作成、焦げ対策、刻印順、色と仕上げ、現場で起こりやすい失敗の処方までを説明します。
- 要点
- レーザーは基準と反復を、手彫りは段差と明暗を担当
- 先に禁則と明帯を決め、データ段階で触らない場所を宣言
- 半仕上げで一度止め、成形や含水を挟んでから手で仕上げる
ハイブリッド作品とは何か(役割分担の設計)
レーザーは図案の外形、位置合わせ、反復精度が抜群です。
ただし、線の厚み、押し跡、稜線の白は苦手領域。
逆に、手彫りは起伏と光のコントロールが得意です。
つまり、輪郭や基準線は機械に任せ、段差・稜線・陰影は手で作るのが最短ルートです。
- 使い分けの原則
- レーザーでやること:外形カット、位置合わせ刻印、浅いガイド、規則模様の下書き
- 手彫りでやること:ベベルで立体、ハーフムーンで面落とし、ビーディングと薄い背景で階調化、短浅影で締め
事前設計:禁則と明帯を先に描く
機械に任せるほど、図案の触ってはいけない場所を先に決める必要があります。
外周の明帯は2〜3ミリ、出口側は0.3〜0.7ミリ広く。
折れ線や金具近傍は5〜8ミリの禁則帯。
主役の外周1.5〜2ミリは、レーザーの焼きも手彫りの濃色も禁止にして読みを守ります。
- 小さな規則
- データ上に明帯と禁則を別レイヤーで保持
- 主役は必ず一つ、準主役は一つまで
- 600pxサムネで先に読めるかを設計段階でチェック
データ作成(SVG/DXF)のコツ
曲線は少ない点で滑らかに。
ベジェのハンドルを伸ばし、節点は減らすとレーザーの走りが安定します。
ラスター彫りに頼らず、ベクトル線を浅出力でガイド化するのが後工程が楽になります。
- データの作法
- カット線・ガイド線・彫り線・禁則を色や線種で分離
- 角は微小Rを付け、ヒートスポットを作らない
- バスケット等の規則模様はブロック化し、中断ラインを用意
レーザー出力の基準(目安)
革厚2.0〜2.5ミリ、植物タンニン鞣しを前提にします。
機種差は大きいので、端革で必ずテストしてください。
- 目安
- 外形カット:低速・中出力。焦げを抑えるなら紙マスクを併用
- ガイド線(浅彫り):高速・低出力。スコアラインとして消せる浅さで
- 微細パターンの下書き:ラスターは薄め。面で埋めない
焦げ・煤のコントロール
焦げが段差と混ざると、立体が濁ります。
紙マスキングや湿り布で熱を逃がし、カット後はマスクごと剥がして煤を連れ去る。
拭き取りは乾拭きから始め、湿り拭きは最小限。
含水は「帯」で与え、作業は乾き切る前に行います。
- 失敗回避
- 黒ずみが広がる:マスクで防ぎ、擦らず置いて拭く
- パス端が毛羽立つ:角に微小R、出力を一段下げて二周カット
- ガイドが深すぎる:レーザーでは見えるか見えないかに留める
ハイブリッドの作業順(基本形)
一気に最後まで機械でやらないこと。半仕上げで止めて、手で呼吸を入れます。
- データに禁則と明帯をレイヤー化
- 紙マスク→外形カット→浅いガイド(骨格・レタリングのベースラインなど)
- 乾拭き→帯ケーシング→浅カット
- ベベルで段差を立てる→ハーフムーン弱で面落ち→ビーディング→薄い背景
- 短浅影0.3〜0.5ミリを境界側に一点→アンティークは線方向拭き
- 半艶トップで艶を統一
- 注意
- レーザーの線は“段差”ではない。段差はベベルで後から作る
- ラスターで面を黒くしない。面の明暗は手で作る
三つの代表メソッド
メソッドA:外形と位置決めをレーザー、彫りは手で
用途:ロングウォレット、ベルト端、名刺入れ外装
流れ:外形と位置合わせ用の十字だけ浅出力→紙マスクのままケーシング→手彫りで段差→マスク剥がし→線方向拭き
効きどころ:機械はまっすぐ切る、人は光を置く
メソッドB:浅い線で彫るべき場所だけガイド
用途:フローラル、スクロール、レタリング
流れ:骨格のS・Cを浅スコア→浅カットはガイドの脇を歩かせる→ベベル→面落とし
効きどころ:ガイドは狭すぎない幅で、刃が迷わない
メソッドC:規則模様だけ機械、主役の周りは手仕上げ
用途:バスケットの均一化、幾何の反復
流れ:ブロック単位で薄ラスターまたは極浅スコア→半目で終端→曖昧化三列で唐草へ
効きどころ:刻印の“列崩れ”が消え、主役が浮く
レタリングと読みの確保
読みが最優先。三つのガイド(ベース・xハイト・傾き)をレーザーでごく浅く刻み、主線は手で細く深く。
カウンターは浅く保ち、交差は白抜き。刻印や濃色は文字外周1.5〜2ミリに入れない。
- 失敗回避
- ガイドが濃すぎて文字が沈む:出力を一段下げる
- 主線が太る:刃の寝かせ過ぎ。角度を立て、速度を落とす
バスケット・幾何の扱い
全面をレーザーの面彫りで埋めるとベタ黒になり、手の階調が死にます。
列の開始と終端に半目を挟み、ハーフムーン弱→ビーディング→薄い背景で曖昧化。
角の返しは一段オフセットで柄を小さく折り返すと崩れません。
- 目安
- BPMは一定(例:90±5)
- 終端は半目で密度を落とし、境界側に短浅影一点
染色・アンティークとレーザー痕
レーザー痕はアンティークを強く吸います。
線方向で軽く拭き、痕にだけ濃色が溜まらないように。
反対色は白帯0.3〜0.5ミリで緩衝。トップは半艶で艶を統一します。
- 小さな規則
- 支配60・副次30・アクセント10
- 明10%(外周・白島・緩衝帯)を削らない
- メタリックは点で。面に乗せない
ケースレシピ(数値入りでそのまま使える)
A:ロングウォレット フローラル×45度バスケット
設計:外周3ミリ明帯、主花は右上三分割交点。
機械:外形カット→骨格のSを浅スコア→バスケットはブロックの薄ラスター(2ブロック)
手:浅カット→ベベル→ハーフムーン弱→ビーディング→薄BG→半目→曖昧化→線方向拭き→半艶
狙い:規則は機械、立体は手。主役周辺は緩衝2ミリで空気を残す
B:二つ折り レタリング頭文字×七宝一列
設計:文字外周1.8ミリ禁止帯、外周2.5ミリ明帯。
機械:3ガイドを極浅スコア→外形カット
手:主線細深→交差白抜き→七宝は浅打ち×低彩度で一列→曖昧化→線方向拭き
狙い:読みを壊さない。レーザーは“定規”だけに使う
C:名刺入れ 外装スクロール×位置合わせ穴
設計:折り線禁則8ミリ、外周3ミリ明帯。
機械:位置合わせ用のピンホールを角にごく浅く→骨格スコア
手:仮合わせ→浅カット→ベベル→薄BG→線方向拭き→半艶
狙い:組み後のズレを消す。穴は浅く、表から見えないレベルに
7分ドリル ハイブリッドの“加減”だけ先に合格
1分:端革に禁則と明帯をペンで描く。
2分:レーザーで骨格のSを極浅スコア。外形は切らない。
2分:浅カット→ベベル→ハーフムーン弱→ビーディング→薄BG。
1分:薄ラスターのバスケットをブロック単位でのせ、半目→曖昧化。
1分:斜光45度・600pxサムネで主役が先に読めるか確認。読めなければ、機械の出力を一段下げ、手の段差を一段上げる。
- 覚え書き
- 機械は「線の位置」、手は「線の厚み」
- 面をレーザーで埋めない
- 仕上げは半艶で艶統一
よくある失敗とその場の直し方
焦げが広がる:紙マスクで再実験、出力を下げ二周カット。こすらず剥がす。
ガイドが強すぎる:出力を一段下げ、乾拭き後に帯ケーシングで馴染ませる。
主役が沈む:緩衝+0.5〜1ミリ、バスケットを一列削減、短浅影を境界側に一点。
面がベタ黒:ラスターはやめ、ブロック単位のスコアに切り替える。
写真でギラつく:半艶に統一、斜光45度固定、角度を10度単位で調整。
- 即効処方
- レーザーの役目を“基準と位置”に縮小
- 手のベベルとハーフムーンで段差を取り戻す
- 600pxサムネで読めなければ設計に戻る
まとめ
ハイブリッドは、機械と手の役割分担です。
レーザーで基準を作り、手で立体を作る。
禁則と明帯を先に宣言し、半仕上げで止めてから仕上げ直す。
面は埋めず、線の厚みと稜線の白で画面を立たせる。
これだけで、再現性と温度の両立が叶います。
注釈
[注1] 出力・速度の数値は機種と個体差が大きい。必ず端革でテストし、焦げ・毛羽・溝深さを確認してから本番へ。[注2] 紙マスキングは焦げと煤の拡散を抑える手段。剥がす際に擦らず、面で持ち上げる。
[注3] ラスターの多用は禁物。面を黒く塗るほど手の階調が死ぬ。ブロック単位のスコアか、刻印で面を落とす。
[注4] 明帯2〜3ミリ、主役外周1.5〜2ミリ、禁則5〜8ミリは読みと耐久の基準。用途や革の硬度で0.3〜0.5ミリ広げる。
[注5] 最終判定は斜光45度・半艶・600pxサムネ。主役が先に読めなければ、機械出力を下げ、手の段差と緩衝を増やす。
