はじめに
カービング(彫り)とバスケットスタンプ(刻印の面)は、どちらが上でも下でもありません。
主役を彫りで立て、余白を刻印で整えるか、刻印の面で土台を作り、その上に最小限の彫りを乗せるか。
使い分けの基準は、用途(財布・ベルト・タグ)/面積/視線の導線です。
ここでは、基準線→密度配分→禁止帯→境界の曖昧化→仕上げの順で、実務に落とし込みます。
使い分けの原則:主役は“彫り”、整えは“刻印”
まず主役を一つ決めます。主役が花・レタリング・動物なら彫りが前、主役がパターンリズム(無地感と耐摩耗)なら刻印が前。
主役の外周には緩衝1〜3mmの“明帯”を確保し、バスケットはそこへ入れない。
出口側の外周は+0.3〜0.7mm広げ、光の逃げ道を作ります。
- 要点(2割の箇条書き)
- 主役は一つに絞る(彫り/刻印のどちらか)
- 主役外周1〜3mmは刻印・濃色の禁止帯
- 外周2〜3mmは“明”として死守(出口側は広め)
設計の順番:基準線→密度→中断ライン
ロング財布は45°基準線、二つ折りは背側平行。
刻印は基準線に等ピッチ・BPM一定で並べ、角手前で1段オフセット(流れが曲がらない)。
画面の密度は60(主役)/30(準)/10(背景)で割り、10の帯に刻印の終端を置きます。
終端は半目(ハーフインプレッション)で密度を落とし、曖昧化3列(ハーフムーン薄→ビーディング→薄BG)でフェードアウト。
- 小さなルール
- 中断ライン(柄の見えない切り替え線)を一本準備
- BPM=90±5などテンポを決め、行ごとに一定化
- 角の返しは“回し+半目”で止める
“彫り優先”のとき:面を削らず、線を立てる
主役がフローラルやレタリングのときは、彫りを先に。
カット→ベベル→ハーフムーン(必要部のみ)で段差を作り、主役の外周を明1〜3mmで囲む。
バスケットは主役の外側だけに置き、短浅影1点を境界側へ。
アンティークは線方向拭きで“細い黒”を残し、面は黒くしない。
- 失敗回避
- バスケットを主役の足元へ入れすぎる→禁止帯+0.5mm
- 境界が崖→半目→曖昧化3列を追加
- 主役が沈む→緩衝+0.5〜1mm、背景を1段落とす
“刻印優先”のとき:土台を作り、最小限だけ彫る
無地感・耐摩耗・価格帯を優先したいときは、刻印が主。基準線→等ピッチ→角オフセット→半目終端で土台を作り、その上に最小限の彫り(主花1輪・頭文字・小さな渦)を乗せます。
レタリングは3ガイド(ベース・xハイト・傾き)を守り、交差白抜けで読みを確保。
- 実装のコツ
- 刻印は浅打ち×低彩度で“地”に回す
- 彫りは主線細深/副線少なめで“点主役”
- 仕上げは半艶で稜線と刻印の陰影を同時に拾う
ケース別使い分け
ロング財布:唐草(主役)×バスケット(整え)
骨格を左下→右上45°、右上三分割交点に主花(短辺×0.62)。
主役外周2mm明帯→その外側に45°バスケット。
角手前で1段オフセット→半目→曖昧化。アンティークは線方向拭き。
狙い:写真サムネ(600px)で右上の主役が先に見える。
二つ折り:バスケット(主)×頭文字(点主役)
基準は背側平行、刻印はBPM一定。文字の外周1.8mmを禁止帯にして、3ガイドを作図。
交差白抜け+短浅影1点。
狙い:耐摩耗・量産性・可読性の両立。
ベルト38mm:全面刻印+区切りの彫り
中央帯は等ピッチ、ホール周りは5〜8mmの禁止帯。中断ラインで柄を分け、区切りの渦を薄く彫る。角は“回し”。
狙い:着用摩耗に強く、節度のあるアクセント。
バスケットの角・終端・継ぎ
角で柄が“暴れる”のは角ピースの面積差が原因。
角手前2打を弱打にし、1段オフセットでV字を小さく。
終端は半目で密度を落とし、曖昧化3列で唐草へ受け渡す。
短浅影1点を境界側に置くと、段差が読めます。
- チェック
- 角内側に白窓1mm
- 中断ラインは骨格と平行
- 終端が見えるときは列を1つ削減
レタリングとの併用:読みを壊さない
読みが最優先。文字外周1.5〜2mmは刻印・濃色禁止。影は短浅1〜2点に限定。
アンティークは線方向で“細い黒”のみ残す。
これでB/Wのコントラストが効き、少色でも締まります。
- 手当
- つぶれたら交差白抜けを追加
- 刻印が強い→1段薄く or 1列削減
- 仕上げは半艶、グロスは反射が暴れる
多色と使い分け:反対色は直接当てない
反対色は白帯0.3〜0.5mmか同系の橋渡しで緩衝。
バスケット面は低彩度で、主役の花・文字へ明10%(稜線・白島・緩衝)を残す。
アンティークは線方向拭きで線読みを補助。
- 記憶フレーズ
- 面=刻印で“落とす”、線=彫りで“立てる”
- 境界は半目→3列→短浅影の三段活用
- **明10%**は削らない(外周・白島・緩衝)
7分ドリル(端革で使い分けを体に入れる)
1分:45°基準線と中断ラインを引く。
2分:バスケットを5×5打、角の1段オフセットと半目終端を試す。
2分:主花の輪郭を彫り、緩衝2mm+白島を置く。
1分:曖昧化3列(ハーフムーン薄→ビーディング→薄BG)。
1分:アンティーク線方向拭き→600pxサムネで主役が先に読めるか確認。読めなければ、刻印列を1列削減し、緩衝を+0.5mm。
- 覚え書き
- 刻印はBPM一定、強弱は行単位で管理
- 角は弱打×2→回し→半目
- 禁止帯(1.5〜2mm)と明10%を守る
よくある失敗 → その場で直す
主役が沈む:緩衝+0.5〜1mm、刻印を1段薄く or 1列削減。
角がガタつく:1段オフセットやり直し→角手前弱打×2→半目。
境界が崖:半目終端→曖昧化3列でフェード。
文字が読めない:禁止帯拡張→交差白抜け→影は短浅1点へ。
写真でざわつく:アンティーク線方向再拭き→半艶トップ→無彩背景で再撮。
まとめ
使い分けの軸は、主役の決定・禁止帯の確保・境界の階調化です。
- 主役は彫りで立て、刻印は面の整えに使う。
- 基準線→密度→中断ラインで刻印を制御。
- 半目→曖昧化3列→短浅影で自然接続。
この順を守れば、カービングの立体とバスケットの規律が、競合せずに相互補強します。
注釈
[注1] 禁止帯:主役(花・文字・動物)外周1〜3mmは刻印・濃色を避ける帯。明の保持と可読性に直結。[注2] 半目(ハーフインプレッション):刻印の終端を半分だけ当て、硬い切断面を作らない方法。曖昧化3列との相性が良い。
[注3] 曖昧化3列:ハーフムーン(弱)→ビーディング→薄BG。段差の崖を階調に変換(第63・69・99回参照)。
[注4] BPM一定:刻印のテンポが乱れると密度ムラが起こる。90±5など許容幅を決めて行で管理。
[注5] 撮影確認:斜光45°×半艶で稜線の白と刻印の陰影を拾い、600pxサムネで主役が最初に読めるかを最終判定にする。
