クロコダイル製品、パイソン製品は現地の工場に直接製作依頼し、熟練の職人が丁寧に手作業で作成したハンドメイド。大量生産では決して真似できない、細部にわたる職人のこだわり。本物を求めるあなたにも手に取っていただきたいと願っています。

【第109回】オーダーメイド製品にカービングを活かす方法

はじめに

オーダーメイドは、作り手の美学とお客さまの目的が出会う場所です。

量産と違い、決まっていないのは当たり前。要件を言語化し、選択肢を整理し、合意を小刻みに積み上げるほど、出来上がりは静かに強くなります。

ここでは、ヒアリングから見積、設計、承認、制作、納品後のケアまでの説明をします。

結論を先に置くと、オーダー成功の軸は三つ。使う場面を先に固定する、図案と素材に禁則を作る、途中確認を増やして合意を分散する。この三つだけで、手戻りとクレームは目に見えて減ります。

  • 要点
    • まず用途とシーンを固定し、禁則と明帯を宣言する
    • 合意は一気に取らず、三回に分割(方向性 → 仕様確定 → 最終ディテール)
    • 写真で読める設計にし、600pxサムネで主役が先に読めるかで判定する

1. ヒアリング設計:質問は順番で結果が変わる

先に聞くべきは趣味ではありません。

使う場面と収容物、使い方の癖、耐久の優先順位。

これを外すと、図案や色をいくら詰めても「役に立たない美品」になります。

  • ヒアリングの順番
    1. 用途と収容物(現金多め・カード多め・鍵・スマホ・名刺など)
    2. 使う頻度と場所(毎日・屋内外・商談・作業現場)
    3. 優先順位(耐久・重量・収納・見栄え・ブランド要素)
    4. 苦手な要素(重さ・厚み・派手色・金属)
    5. 名入れやモチーフの意味(花・蔦・動物・頭文字)

この5点が固まった時点で、初回の方向性合意を取ります。

図案はまだ出さない。まずは「何に使い、何を入れ、何を優先するか」の地図を共有します。


2. 仕様の地図を描く:禁則と明帯で揉めない図面

オーダーでは、後から足すほど事故になります。最初に「触ってはいけない場所」を線で引きます。

外周は光を逃がす明帯、可動部や金具周りは段差と濃色を避ける禁則。

主役の外周には刻印・濃色・金具を入れない禁止帯。

これを図で渡すだけで、完成の顔が安定します。

  • 数値の目安
    • 外周の明帯 2〜3mm(出口側は0.3〜0.7mm広く)
    • 金具・折れ線の禁則 5〜8mm(深い段差と濃色を避ける)
    • 主役外周の禁止帯 1.5〜2mm(刻印・濃色・金具禁止)
    • レタリングの読み保護 文字外周1.8mm禁止帯、交差は白抜き

3. 図案の決め方:意味と読みを両立させる

モチーフに意味があると、お客さまは一気に愛着を持ちます。

ただし、意味が強すぎると読みが落ちます。

主役は一点、準主役は一点まで。スクロールや蔦は骨格を作り、花は点の主役で視線を止めます。

レタリングは読みが最優先。交差を白抜き、影は短く浅く1〜2点にとどめます。

  • 失敗回避
    • モチーフを増やすほど文脈が散る → 主役一点、準主役一点
    • 花弁の面塗りでのっぺり → ハーフムーン弱で面落とし、稜線に薄い明
    • 反対色の直突きで濁る → 白帯0.3〜0.5mmで分離

4. 素材・厚み・構造:使い方の癖に合わせて選ぶ

同じ図案でも、革厚と構造で寿命が変わります。

毎日使う長財布は、外装2.2〜2.5mm、内装1.2〜1.5mmが扱いやすい。

名刺入れは折れ線優先で外装2.0〜2.3mm、内装1.2〜1.5mm。

スマホケースの外装は1.8〜2.2mm、開口部に禁則を取る。

ベルトは曲げと圧に耐えるため、厚みと幅の相性を先に決めます。

  • 素材選びの小さな規則
    • 含水は帯で与え、可動部に深い段差を作らない
    • 内装は支え役。段差は浅め、触感を邪魔しない
    • 金具の座繰りと座金で面圧に受け、接着は補助に回す

5. 見積の出し方:選択肢を三段で示す

価格で迷わせないために、差は明確に。

軽量型、標準型、贅沢型の三案を並べ、差分は素材・工程・仕上げの具体で見せます。

各案は納期と保証範囲を明記。

レア素材や特別工程(箔、インレイ、レーザー併用など)はオプションで分離しておくと揉めません。

  • 三段の例
    • A 軽量型:外装2.0、内装1.2、少色、アンティーク軽、半艶
    • B 標準型:外装2.3、内装1.4、少色+薄バスケット、半艶
    • C 贅沢型:外装2.5、内装1.5、箔・インレイ一点、手縫い、半艶

6. 合意の分割:承認は三回で良い

初回は方向性(用途・優先順位・配色の温度)に限定。

2回目で仕様確定(サイズ・構造・禁則・明帯)。3回目で最終ディテール(図案ラフの骨格・名入れ位置・金具色)。これ以上を前倒しすると、後戻りが大きくなります。

すべてを画像で残し、日時と版を付けます。

  • 途中確認のポイント
    • 斜光45度の撮影で段差が読めるか
    • 600pxサムネで主役が先に読めるか
    • 金具周りに色と段差が被っていないか

7. 制作の順番:半仕上げで一度止める

平面で全部仕上げてから組むのは、オーダーでは危険です。

可動部の割れや戻りが読めません。

下描きと浅いカット、浅いベベルで骨格を立て、ハーフムーン弱で面落ちを作ったところで一度止め、仮組み。曲面や厚みの合いを見て、仕上げのベベル、ビーディング、薄い背景、線方向アンティークへ進みます。

  • 注意
    • 成形前に深い段差を作らない
    • 境界は半目で止め、曖昧化三列で崖を階調に
    • レタリングの周囲は常に明を残す

8. 配色と艶:オーダーは写真に耐えること

現物だけでなく、写真での第一印象が納品直後の満足度を左右します。

支配60・副次30・アクセント10の配分を守り、アクセントの一部を金属や箔の点に置き換える場合は総面積1〜3%に抑えます。艶は半艶で統一。艶の混在は写真で暴れ、立体が死にます。

  • 小さな規則
    • アンティークは線方向で拭き、谷にベタ黒を作らない
    • 反対色は白帯0.3〜0.5mmで緩衝
    • 仕上げは薄塗り複数回、角と折れはさらに薄く

9. 名入れ・家紋・ロゴ:読みと品位を両立

頭文字は点主役として最強です。

三つのガイド(ベース、xハイト、傾き)を作図し、主線細深・交差白抜き・カウンター内浅。

ロゴは面積が大きいと画面を支配するので、細い輪やリングに変換し、白帯で分離。家紋や紋章は面ではなく線で拾い、主役のそばに置き過ぎない。

  • 失敗回避
    • ロゴを面で入れる → 細線化し、白帯で分離
    • 名入れが金具に被る → 配置をずらす、または金具色を低彩度へ
    • 家紋の黒ベタ → 浅打ち・低彩度・一列だけ

10. 納品の写真と一式同梱

写真は正面と斜光45度、背景は無彩色。

サムネイルで主役が先に読めるかを自分で確認し、合格してから納品します。

添付するのは、取り扱い説明、色移り注意、メンテ周期(ワックスや増し締めの目安)、将来の修理メニュー。これがあるだけで信頼が変わります。

  • 同梱の最小セット
    • ケアカード(保管・水濡れ・色移り・手入れ)
    • メンテナンスの受付方法と費用目安
    • 撮影済みの完成写真(お客さま側での二次利用ガイド)

ケースレシピ(そのまま流用できる四本)

A:長財布 オフィスユース向け

要件:カード12、紙幣多め、商談で見せる、派手色不可。
設計:外装2.3、内装1.4。外周3mm明帯。主花は右上三分割交点、レタリング頭文字を小さく点主役。
工程:浅ベベル→ハーフムーン弱→薄BG→線方向アンティーク→半艶。
狙い:読みを邪魔しない静かな顔。金具は一点、低彩度。

B:スマホケース 衝撃保護重視

要件:屋外、落下が心配、片手操作、カメラ反射NG。
設計:外装2.0、開口禁則5〜8mm、外周3mm明帯。主役は頭文字か小花。
工程:半仕上げで仮成形→曲面上で仕上げ→低彩度→半艶。
狙い:可動部に段差を作らず、レンズ周りは低彩度・点光なし。

C:ベルト ギフト用

要件:38mm、西部系、名入れ、派手すぎない。
設計:45度バスケットは外から中へ濃度を落とす。頭文字は点主役。外周は3mm明帯。
工程:BPM一定→半目終端→曖昧化三列→線方向拭き→半艶。
狙い:規則で面を支え、主役は一点で止める。

D:名刺入れ 商談用

要件:薄さ優先、読み最優先、色は控えめ。
設計:外装2.2、内装1.2、折れ線禁則8mm。主花は小さく、七宝一列は低彩度。
工程:ベベル浅→薄BG→曖昧化→線方向拭き→半艶。
狙い:手触りと出し入れの滑らかさ。写真で白飛びしない艶。


7分ドリル オーダー前の合意だけ先に取る

1分:用途・収容物・頻度・優先順位を短文で書き出す。
2分:禁則と明帯を図に描き、主役と準主役の位置だけ決める。
2分:600pxサムネ想定のラフを鉛筆で描き、主役が先に読めるか確認。
1分:三段の見積差分(素材・工程・仕上げ)を箇条書きに。
1分:初回合意メモを作り、版と日時を付ける。

  • 覚え書き
    • 先に用途、次に禁則、最後に図案
    • 合意は三回に分ける
    • 写真で読めなければ設計に戻る

よくある失敗とその場の直し方

主役が沈む:緩衝を0.5〜1mm広げ、幾何や刻印の列を一列削減。背景を一段落とす。
折れ部で割れる:成形前に深い段差。帯ケーシングで再調整し、ハーフムーン弱で面落ちに切り替え。
名入れが読みにくい:文字外周1.8mmの禁止帯を再設定、交差白抜き、影を短浅1〜2点に。
濁って重い:反対色の直突きを白帯0.3〜0.5mmで分離、アンティークは線方向で拭き戻す。
写真でギラつく:艶を半艶に統一、斜光45度固定、角度を10度単位で調整。

  • 即効処方
    • 禁則と明帯を描き直す
    • 主役は一点、準主役は一点まで
    • 合意メモに追記し、次の承認で再確認

まとめ

オーダーは、設計と合意の競技です。用途を先に固め、禁則と明帯で境界を守り、主役を一点に絞る。合意は3回に分け、半仕上げで一度止めてから仕上げる。

艶は半艶で統一し、600pxサムネで主役が最初に読めるかを最終判定にする。

これだけで、意味のある一品が静かに強く立ち、お客さまの毎日に馴染みます。


注釈

[注1] 数値はベジタブルタンニン1.8〜2.5mm厚を基準。硬い個体や厚物では禁則や明帯を0.3〜0.5mm広げる。
[注2] 600pxサムネは読み判定の基準。主役が先に読めなければ、段差・緩衝・配色を見直す。
[注3] 合意の三分割は手戻りの抑制策。方向性→仕様確定→最終ディテールの順に限定して承認を取る。
[注4] 反対色の直突きは白帯0.3〜0.5mmで緩衝。アンティークは線方向の拭きで薄い黒だけ残す。
[注5] 名入れは読み優先。三ガイド・交差白抜き・短浅影の基本を崩さない。
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