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ヌメ革とは、植物性タンニンを使って時間をかけて鞣(なめ)された、最も自然に近い革

【第104回】財布以外のカービング応用例|キーホルダー・名刺入れ

はじめに

財布の設計に慣れると、つい同じルールを他の小物にも当てはめたくなります。

しかし、小物は構造が違い、動く場所も力のかかり方も別物です。

キーホルダーは捻れと金具に耐え、名刺入れは出し入れのスムーズさと角の強度が命。

ここでは、素材厚、禁則、骨格線、刻印密度、色と仕上げ、撮影までを、実寸の目安とともに落とし込みます。

合言葉は、動くところは薄く、当たるところは鈍く、主役は一つだけ。

  • 要点
    • 金具や折れの近くに段差と濃色を集めない
    • 小物ほど点主役で読みを確保、境界は短く浅く
    • 端の始末と手触りが体験のすべてになる

カテゴリー共通の設計基準

小物で起きるトラブルの多くは、段差や濃色が可動部・金具の近くにあることが原因です。

まず禁則を先に描き、外周の明帯を確保してから図案を置く。

ベースはこれだけで失敗が減ります。

  • 先に決める三点
    • 外周2〜3mmの明帯、出口側は0.3〜0.7mm広く
    • 金具・折れ線まわり5〜8mmは段差と濃色を避ける
    • 主役の外周1.5〜2mmは刻印と濃色の禁止帯

キーホルダー編|捻れに勝つ点主役の設計

形と寸法の基礎

一般的なシングルキー用で幅22〜28mm、全長75〜95mm。

二重カンやナスカンを使う場合は、金具の可動域に合わせてホール位置とRを大きめに取ります。革厚は2.0〜2.5mm(総厚は貼り合わせで3.5〜4.0mm)が扱いやすいです。

  • 設計の勘所
    • 骨格は平行を基本に、先端に向けてわずかなテーパー
    • 穴中心からエッジまで3.5〜4.5mmの逃げ
    • コバは丸みを強め、手触り優先で面取り

図案の置き方

小面積で視線を止めるには点主役が有利です。頭文字、小花一輪、渦の白い島を一つ。

ベベルは深くし過ぎず、ハーフムーンは弱打の短い弧で面を落とします。

バスケットは一列か二列まで、角は回して半目で止めます。

  • 失敗回避
    • 穴と主役が近いと欠けやすい → 禁則を+0.5mm
    • 色移りが出やすい → トップを穴の内壁まで浸透
    • 触感が硬い → 顔料は点のみ、アンティークは線方向拭き

金具と縫いの相性

二重カンは回転でコバを削ります。コバは念入りに磨き、トップは薄塗り複数回。

ステッチは機能優先でピッチを1〜2目広げ、角で詰まらないようテンションを一定に。

  • 小さな規則
    • リベット近傍は段差浅め、濃色禁止
    • ナスカンは重さが出るため、図案は軽く一点集中
    • レース仕立てにするなら幅2mm・ピッチ×2.0

色と仕上げ

多色はにじみ事故が目立つため、支配60・副次30・アクセント10の範囲で少色に。

アクセントの一部にメタリック点を一つ。トップは半艶、手脂での馴染みが早いです。

  • テスト
    • 端革で引っかき、色移りと剥離をチェック
    • 斜光45度で撮影し、600pxサムネでも主役が読めるか判定

名刺入れ編|出し入れと角の強度を両立させる

形と構造

定番は二ポケット、30〜40枚収納。

外装は2.0〜2.3mm、内装は1.2〜1.5mm、見返しとマチは薄めを選び、可動部は段差を作らない。折れ線に段差や濃色が来ると割れや皺が出ます。

  • 設計の骨格
    • 折り線に平行の骨格を一本、入口から出口へ緩くS字
    • 外周2.5〜3mmの明帯を四辺に
    • マチは三角なら5〜6mm、箱マチなら7〜9mm

図案の置き方

外装の主役は一つ。主花一輪または頭文字、白い島を必ず一つ入れ、稜線の明を残す。

折り線から5〜8mmはベベルを浅く、ハーフムーンは弱打だけ。

幾何は低彩度・浅打ちで、交点に白窓をひとつ置き、段差を曖昧化でつなぐ。

  • レタリングの注意
    • 三つのガイド(ベース・xハイト・傾き)を作図
    • 文字外周1.8mmは禁止帯
    • 交差は白抜き、影は短く浅く一〜二点

マチと内装の干渉を避ける

内装の段差が名刺の角を引っかけます。内装はあくまで支え役。

コバは薄く、トップは一段軽く、触感を邪魔しないよう統一。

  • 典型的な事故と処方
    • 折れ線に濃色で割れる → 無彩域に戻し、トップを薄塗り複数回
    • 名刺が擦れる → 内装の段差を落とし、入口に白帯0.3mm
    • 主役が沈む → 緩衝+0.5mm、幾何を一列削減

カラールールとトップ

名刺入れは室内照明で見られることが多いので、マット寄りは渋く見えますが、彩度が落ちやすいです。

半艶を標準にし、レジストは薄く、アンティークは線方向の軽い拭きで止める。

  • 仕上げの順
    • 染→ベベル→ハーフムーン→薄BG→アンティーク→トップ
    • 必要ならドライブラシで稜線に極少の白を拾う

具体レシピ(使い回しできる三本)

A:キーホルダー 小花と頭文字

寸法:幅25mm×全長90mm、穴からエッジ3.8mm。
図案:小花一輪(渦外に白島1.5mm)、頭文字は上部に点主役。
工程:ベベル浅→ハーフムーン弱→短浅影1点→バスケット一列→半目止め→線方向拭き→半艶。
狙い:点で止め、触感を邪魔しない。

B:名刺入れ 主花一輪+幾何一列

寸法:閉じた状態で横110×縦75×厚み20mm。
図案:主花を右上三分割交点、外側に七宝一列(交点白)。
工程:折り線禁則8mm→ベベル→薄BG→幾何浅打ち→曖昧化三列→線方向拭き→半艶。
狙い:読みを守りつつ、幾何で面の整え。

C:キーホルダー レタリング単体

寸法:幅22mm×全長80mm。
図案:3ガイド、交差白抜き、ピリオドに極小の明。
工程:主線細深→カウンター内浅→短浅影1点→トップ→金具取り付け。
狙い:読み最優先、金具に干渉しない段差。


7分ドリル 小片で使用感だけ先に確認

端革をキーホルダーサイズと名刺入れ外装サイズで二枚用意します。

まず禁則と明帯をペンで描き、ベベルとハーフムーンで段差の効きだけ試します。

次に短浅影を最大三点、幾何は一列だけ浅打ち。最後に斜光45度で撮影し、600pxサムネでも主役が最初に読めるかを見ます。

読めない場合は、緩衝を+0.5mm、幾何を一列削減、アンティークは線方向で軽くに戻します。

  • 覚え書き
    • 小物は点主役、境界は短く浅く
    • 金具と折れの周囲は無彩域で軽く
    • 明十パーセントを削らない

よくある失敗とその場の直し方

金具近傍でひびや色移りが出たら、トップを穴の内壁まで追加してから薄いレジストで地を固定。

段差が角で欠ける時は、角Rを+2mm、ベベルを一段浅く、ハーフムーンは弱打に切り替えます。

読みが落ちたレタリングは、交差白抜きを追加し、影を短浅一〜二点に制限。

写真がざわつくときは、半艶で艶を統一し、アンティークは線方向に再拭き、背景を無彩色に戻します。

  • 即効処方
    • 禁則+0.5mm、幾何は一列削減
    • 濃色は線方向へ軽く拭き戻す
    • コバは磨き直し、トップは薄塗り複数回

まとめ

キーホルダーは捻れと金具、名刺入れは出し入れと角の強度。

どちらも財布より狭い画面で、視線を点で止める設計が効きます。

禁則と明帯を先に決め、段差は浅く短く、幾何は支え役へ。

色は少色、仕上げは半艶、撮影は斜光45度。

小物で丁寧に整えたルールは、そのまま大物の仕上げの品位にも跳ね返ります。


注釈

[注1] 寸法はベジタブルタンニン2.0〜2.5mm厚を基準。硬い革では禁則や逃げを0.3〜0.5mm広げる。
[注2] 金具近傍は濃色と深い段差を避ける。穴の内壁までトップを浸透させると色移りが減る。
[注3] 小物の多色はにじみが目立つ。支配60・副次30・アクセント10の範囲で、アクセントは面ではなく点。
[注4] レタリングは三つのガイドと交差白抜きが読みの要点。影は短浅一〜二点を上限にする。
[注5] 仕上げは半艶を標準に。斜光45度・600pxサムネで主役が先に読めるかを最終判定とする。
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