はじめに
財布の設計に慣れると、つい同じルールを他の小物にも当てはめたくなります。
しかし、小物は構造が違い、動く場所も力のかかり方も別物です。
キーホルダーは捻れと金具に耐え、名刺入れは出し入れのスムーズさと角の強度が命。
ここでは、素材厚、禁則、骨格線、刻印密度、色と仕上げ、撮影までを、実寸の目安とともに落とし込みます。
合言葉は、動くところは薄く、当たるところは鈍く、主役は一つだけ。
- 要点
- 金具や折れの近くに段差と濃色を集めない
- 小物ほど点主役で読みを確保、境界は短く浅く
- 端の始末と手触りが体験のすべてになる
カテゴリー共通の設計基準
小物で起きるトラブルの多くは、段差や濃色が可動部・金具の近くにあることが原因です。
まず禁則を先に描き、外周の明帯を確保してから図案を置く。
ベースはこれだけで失敗が減ります。
- 先に決める三点
- 外周2〜3mmの明帯、出口側は0.3〜0.7mm広く
- 金具・折れ線まわり5〜8mmは段差と濃色を避ける
- 主役の外周1.5〜2mmは刻印と濃色の禁止帯
キーホルダー編|捻れに勝つ点主役の設計
形と寸法の基礎
一般的なシングルキー用で幅22〜28mm、全長75〜95mm。
二重カンやナスカンを使う場合は、金具の可動域に合わせてホール位置とRを大きめに取ります。革厚は2.0〜2.5mm(総厚は貼り合わせで3.5〜4.0mm)が扱いやすいです。
- 設計の勘所
- 骨格は平行を基本に、先端に向けてわずかなテーパー
- 穴中心からエッジまで3.5〜4.5mmの逃げ
- コバは丸みを強め、手触り優先で面取り
図案の置き方
小面積で視線を止めるには点主役が有利です。頭文字、小花一輪、渦の白い島を一つ。
ベベルは深くし過ぎず、ハーフムーンは弱打の短い弧で面を落とします。
バスケットは一列か二列まで、角は回して半目で止めます。
- 失敗回避
- 穴と主役が近いと欠けやすい → 禁則を+0.5mm
- 色移りが出やすい → トップを穴の内壁まで浸透
- 触感が硬い → 顔料は点のみ、アンティークは線方向拭き
金具と縫いの相性
二重カンは回転でコバを削ります。コバは念入りに磨き、トップは薄塗り複数回。
ステッチは機能優先でピッチを1〜2目広げ、角で詰まらないようテンションを一定に。
- 小さな規則
- リベット近傍は段差浅め、濃色禁止
- ナスカンは重さが出るため、図案は軽く一点集中
- レース仕立てにするなら幅2mm・ピッチ×2.0
色と仕上げ
多色はにじみ事故が目立つため、支配60・副次30・アクセント10の範囲で少色に。
アクセントの一部にメタリック点を一つ。トップは半艶、手脂での馴染みが早いです。
- テスト
- 端革で引っかき、色移りと剥離をチェック
- 斜光45度で撮影し、600pxサムネでも主役が読めるか判定
名刺入れ編|出し入れと角の強度を両立させる
形と構造
定番は二ポケット、30〜40枚収納。
外装は2.0〜2.3mm、内装は1.2〜1.5mm、見返しとマチは薄めを選び、可動部は段差を作らない。折れ線に段差や濃色が来ると割れや皺が出ます。
- 設計の骨格
- 折り線に平行の骨格を一本、入口から出口へ緩くS字
- 外周2.5〜3mmの明帯を四辺に
- マチは三角なら5〜6mm、箱マチなら7〜9mm
図案の置き方
外装の主役は一つ。主花一輪または頭文字、白い島を必ず一つ入れ、稜線の明を残す。
折り線から5〜8mmはベベルを浅く、ハーフムーンは弱打だけ。
幾何は低彩度・浅打ちで、交点に白窓をひとつ置き、段差を曖昧化でつなぐ。
- レタリングの注意
- 三つのガイド(ベース・xハイト・傾き)を作図
- 文字外周1.8mmは禁止帯
- 交差は白抜き、影は短く浅く一〜二点
マチと内装の干渉を避ける
内装の段差が名刺の角を引っかけます。内装はあくまで支え役。
コバは薄く、トップは一段軽く、触感を邪魔しないよう統一。
- 典型的な事故と処方
- 折れ線に濃色で割れる → 無彩域に戻し、トップを薄塗り複数回
- 名刺が擦れる → 内装の段差を落とし、入口に白帯0.3mm
- 主役が沈む → 緩衝+0.5mm、幾何を一列削減
カラールールとトップ
名刺入れは室内照明で見られることが多いので、マット寄りは渋く見えますが、彩度が落ちやすいです。
半艶を標準にし、レジストは薄く、アンティークは線方向の軽い拭きで止める。
- 仕上げの順
- 染→ベベル→ハーフムーン→薄BG→アンティーク→トップ
- 必要ならドライブラシで稜線に極少の白を拾う
具体レシピ(使い回しできる三本)
A:キーホルダー 小花と頭文字
寸法:幅25mm×全長90mm、穴からエッジ3.8mm。
図案:小花一輪(渦外に白島1.5mm)、頭文字は上部に点主役。
工程:ベベル浅→ハーフムーン弱→短浅影1点→バスケット一列→半目止め→線方向拭き→半艶。
狙い:点で止め、触感を邪魔しない。
B:名刺入れ 主花一輪+幾何一列
寸法:閉じた状態で横110×縦75×厚み20mm。
図案:主花を右上三分割交点、外側に七宝一列(交点白)。
工程:折り線禁則8mm→ベベル→薄BG→幾何浅打ち→曖昧化三列→線方向拭き→半艶。
狙い:読みを守りつつ、幾何で面の整え。
C:キーホルダー レタリング単体
寸法:幅22mm×全長80mm。
図案:3ガイド、交差白抜き、ピリオドに極小の明。
工程:主線細深→カウンター内浅→短浅影1点→トップ→金具取り付け。
狙い:読み最優先、金具に干渉しない段差。
7分ドリル 小片で使用感だけ先に確認
端革をキーホルダーサイズと名刺入れ外装サイズで二枚用意します。
まず禁則と明帯をペンで描き、ベベルとハーフムーンで段差の効きだけ試します。
次に短浅影を最大三点、幾何は一列だけ浅打ち。最後に斜光45度で撮影し、600pxサムネでも主役が最初に読めるかを見ます。
読めない場合は、緩衝を+0.5mm、幾何を一列削減、アンティークは線方向で軽くに戻します。
- 覚え書き
- 小物は点主役、境界は短く浅く
- 金具と折れの周囲は無彩域で軽く
- 明十パーセントを削らない
よくある失敗とその場の直し方
金具近傍でひびや色移りが出たら、トップを穴の内壁まで追加してから薄いレジストで地を固定。
段差が角で欠ける時は、角Rを+2mm、ベベルを一段浅く、ハーフムーンは弱打に切り替えます。
読みが落ちたレタリングは、交差白抜きを追加し、影を短浅一〜二点に制限。
写真がざわつくときは、半艶で艶を統一し、アンティークは線方向に再拭き、背景を無彩色に戻します。
- 即効処方
- 禁則+0.5mm、幾何は一列削減
- 濃色は線方向へ軽く拭き戻す
- コバは磨き直し、トップは薄塗り複数回
まとめ
キーホルダーは捻れと金具、名刺入れは出し入れと角の強度。
どちらも財布より狭い画面で、視線を点で止める設計が効きます。
禁則と明帯を先に決め、段差は浅く短く、幾何は支え役へ。
色は少色、仕上げは半艶、撮影は斜光45度。
小物で丁寧に整えたルールは、そのまま大物の仕上げの品位にも跳ね返ります。
注釈
[注1] 寸法はベジタブルタンニン2.0〜2.5mm厚を基準。硬い革では禁則や逃げを0.3〜0.5mm広げる。[注2] 金具近傍は濃色と深い段差を避ける。穴の内壁までトップを浸透させると色移りが減る。
[注3] 小物の多色はにじみが目立つ。支配60・副次30・アクセント10の範囲で、アクセントは面ではなく点。
[注4] レタリングは三つのガイドと交差白抜きが読みの要点。影は短浅一〜二点を上限にする。
[注5] 仕上げは半艶を標準に。斜光45度・600pxサムネで主役が先に読めるかを最終判定とする。
