※本記事は「クロコダイル製品の品質と価格差」で紹介されている“タイ工房の製造工程を日本工房と比較”を詳しく掘り下げた記事です。
「“仕上げの国・日本”と“革の熱を伝えるタイ”──2つの工房が語る、手仕事の価値」
はじめに──クロコダイル財布“品質の差”は、どこに生まれるのか?
クロコダイルの財布を選ぶ際、多くの方が「日本製はやはり安心だ」と感じるのではないでしょうか。
確かに、日本の革工房は、その丁寧な仕上げや均質な品質で長年評価を得てきました。
一方、近年注目されているのが、タイの老舗工房が手掛けるクロコダイル製品です。
特に“センター取り”“手縫い”“一点仕上げ”といった高級ラインでは、日本製に勝るとも劣らない品質を誇り、世界のバイヤーからも注目されています¹。
この記事では、タイと日本の工房における製造工程を段階ごとに比較しながら、品質の源を探っていきます。

工程①:クロコダイル財布の原皮の選定と管理
日本工房の場合
多くの日本工房は、鞣し済みのクロコダイルレザーを国内のタンナーや輸入業者から仕入れます。
この際、ウロコの左右対称性・キズの有無・色ムラの程度といった細部まで厳密に検品され、基準に満たない革は使用されません²。
また、日本の工房では「同一ロット内でも選定にばらつきが出ないようにするため、革を数日寝かせて均一化する工程」など、加工前から品質を整える工夫がなされています。
タイ工房の場合
タイ工房における原皮管理の進化は、品質向上にも直結しています。詳細は下記の記事をご参照ください。(第54回|品質向上、その理由と証拠)
タイでは、原皮の段階から工房が直接クロコダイル養殖場と契約し、原皮の個体指定や腹部のサイズ測定を自社で実施します³。
特に「センター取り」と呼ばれる腹部中央の美しい部位を使用する製品では、1匹ごとの模様と厚みを人の目で確かめながら選別します。
また、タイ政府認可のCITES輸出用農場(例:Samut Prakan、Nakhon Pathomなど)では皮革品質の安定化技術(皮膚管理、ストレス低減飼育)が確立されており⁴、その結果として仕上がりの表面美に差が出にくくなっています。
工程②:クロコダイルレザー裁断・型取り
日本工房の場合
日本では、型紙に基づきミリ単位のズレを排除するカット作業が主流です。
カットは革包丁やプレス機を併用し、特に左右対称性の美しさが重視されます。
また、センター取りにおいてはウロコの模様の流れが自然になるよう角度を微調整してカットする職人技が求められます⁵。
タイ工房の場合
タイの工房では、伝統的に1点ごとの手型紙を用いた裁断が行われます。
職人は長年の経験をもとに、「模様が美しく映える角度」を感覚的に捉え、模様・色・厚みの“バランス”を整えて裁断。
この工程はまさに“感性”の領域であり、日本の“寸法管理型”と対照的に、**「革の個性を活かすカット」**が行われています。
工程③:クロコダイル財布縫製(手縫いとミシン縫い)
日本工房の場合
日本の高級革製品は「ミシン縫い+仕上げ手縫い」が一般的です。
中でも“菱目打ち”による均一な針穴形成と、糸の“交差バランス”を揃える技術は、極めて高精度な職人芸です⁶。
また、手縫い箇所に対する糸の引き具合やコバとの距離の揃え方も、日本工房ならではの厳格さがあります。
タイ工房の場合
タイでは、完全手縫いの製品が多く、**職人が一本一本の針を革に通す“立体縫製”**が主流です。
日本のような均一性というより、革の反発・厚み・テンションを読みながら縫うため、“少し荒々しくも力強い縫い”に仕上がります。
特に高級ラインでは麻糸やロウ引き糸を用いた手縫いが多く、糸の色と革のコントラストで立体感を演出する技術が発展しています。
工程④:クロコダイル財布のコバ(縁)処理
日本工房の場合
コバ処理は、日本工房の美的完成度を象徴する工程です。
ヤスリ・染料・コーティング剤を複数回塗布し、鏡面のような滑らかさを出す仕上げを施します。
コバ面の段差や波打ちを0.1mm以下に抑える職人もおり、まさに**“工芸の域”のこだわり**です⁷。
タイ工房の場合
タイの工房では、ややマットで自然なコバ仕上げが一般的。
最近では日本製のコーティング材(セリースやトコノールなど)を導入する工房も増え、徐々に「見た目の滑らかさ」も改善されつつあります。
しかし、基本は**“革の質感を残す”方向性の処理**が多く、日本の鏡面仕上げとは美意識が異なります。
工程⑤:クロコダイル財布の最終仕上げと検品
日本工房の場合
製品が完成すると、複数名による検品体制が敷かれます。
外観・内部・糸・コバ・金具の状態など約20項目をチェックし、NG品は返品または再加工。
品質ラベルや製造証明書も付属することが多く、「保証」が前提のものづくりです。
タイ工房の場合
仕上げと検品における判断基準の違いは、国ごとの文化背景とも関係しています。詳しくは以下をどうぞ。(第59回|文化的アプローチの違い)
タイの老舗工房では、ベテラン職人自身が最終検品を兼ねることが多く、責任感をもって製品と向き合う文化があります。
ただし、海外輸出向け商品については別途、商務省のCITES検査官がタグ付け・検査を行い、品質証明を発行⁸。
そのため輸出製品は一定以上の品質を保つ体制が整っています。
工房の違い=価値観の違い
タイ製と日本製の価格に影響を与えている“工程と価値観”の違いを定量的に比較した記事もあわせてご覧ください。(第52回|価格差の実例比較)
日本工房が追い求めるのは、「完璧な均一性と清潔感」。
一方で、タイ工房が大切にするのは「革本来の表情」と「作り手の温度」。
どちらが優れているという話ではありません。
大切なのは、「どの価値観が自分に合うか」を知り、選ぶことです。
まとめ
クロコダイル財布の製造工程を、日本とタイの工房で比較して見えてきたのは、それぞれに根ざした価値観と技術の方向性の違いでした。
- 日本:均質性・精密性・完璧主義の結晶
- タイ:革の個性・手作業の温もり・柔らかい人間性
もしあなたが、“本当にいいもの”を選びたいと願うなら、価格やブランドではなく、**その財布に込められた“哲学”や“作り手の美意識”**に目を向けてください。
タイ製品には、あなたがまだ知らない「本物の物語」があります。
クロコダイル製品の品質と価格差について、もっと広く知りたい方へ──
本記事は「クロコダイル製品の品質と価格差」にて取り上げている“タイ工房の製造工程を日本工房と比較”に関連した内容です。
📚参考文献
- タイ商務省「クロコダイル皮革輸出統計レポート2023」
- 経済産業省「皮革産業品質管理体制調査」(2020年)
- タイ産業省「革製品原皮供給体制の現状分析」
- タイCITES認可クロコダイル農場リスト(環境省・タイ王国、2022年)
- 日本皮革技術センター「クロコダイル裁断講習資料」
- 革工芸ジャーナル「日本職人の縫製技術に関する特集記事」(2021年10月)
- 日本皮革産業連合会「工房別コバ処理技術比較」
- タイ商務省輸出品検査官ガイドライン(2022年発行)
