クロコダイル製品、パイソン製品は現地の工場に直接製作依頼し、熟練の職人が丁寧に手作業で作成したハンドメイド。大量生産では決して真似できない、細部にわたる職人のこだわり。本物を求めるあなたにも手に取っていただきたいと願っています。
カービングとは、彫刻のように「革を彫る」技法

【第93回】オリジナルカービングを商品化するアイデアと工夫

はじめに

「いい作品ができた。さぁ売ろう」——ここで転ぶ人が多いんです。

作品と商品は似て非なるもの。

再現できる設計伝わる見せ方約束を守れる運用の三点セットが揃って、はじめて“売れる商品”になります。

今日は工房の視点で、設計→原価→SKU→撮影→販売運用→アフターについてのお話です。

テクニックは<技術・テクニック編>、表現は<表現編>でお伝えしました。ここでは商品化に必要な“仕組み”についてです。


1. 作品を“商品仕様”に翻訳する

まずは、あなたの代表作を一つ選んでください。

ロングウォレットでも、タグでも構いません。

見た目の勝ち筋(第81〜91回参照)を維持したまま、作り続けられる形に落とします。

ポイントは、余白と比率は固定し、色や名入れで個別化する設計です。
私は下記の順で洗い出します。見栄えより先に、守るべき寸法と工程を固めるのがコツ。

  • 翻訳の要点
    • 仕上がり寸法(±0.5mmの許容)
    • 外周余白帯2–3mm/緩衝帯1–3mm(第89回参照)
    • 骨格線(45°/S字/円弧)と出口余白(第81回参照)
    • 皮革種・厚み・芯材・糸番手・コバ仕様
    • 影は短浅3点以内、境界は曖昧化3列(第63・69・87回参照)

2. 原価の見える化——“時間×材料×間接”で計る

良心価格は、続けられる価格。工程ごとの時間をストップウォッチで測り、材料(BOM)と間接費を足します。驚くほど、値付けの不安が消えます。
語りで言えば、「この作品を何分でいくら分の革と糸と塗料で作って、どれだけの光熱・販促・送料が乗るのか」。数字で語れると、お客様にも誠実に説明できます。

  • ざっくり式
    • 直材(革・糸・芯材・薬剤)+外注(刻印・金具)
    • 工数(合計分)×自分の時給(最低でも地域の職人市場基準)
    • 間接(光熱・工具償却・EC手数料・梱包)=売価の15〜25%目安
    • 利益=再投資と不測のリスク用に15%+α

3. SKU設計:バリエーションは“3×3”で十分

選択肢は多いほど良い、は罠です。基幹デザイン1型に対して、色(3)×名入れ(3)×金具色(3)くらいが、在庫・撮影・説明のバランスが取れます。
迷いを減らすため、写真で見分けやすい差に絞りましょう。革色は素材の魅力が出る3色
、名入れは無し/頭文字/フルネーム、金具は真鍮/ニッケル/黒など。

  • SKU運用のコツ
    • “受注生産”と“即納在庫”を半々
    • 名入れはガイド3本(ベース・xハイト・傾き)で可読性維持(第87回参照)
    • 仕様表を1枚に集約(購入前の不安を潰す)

4. “伝わる写真”は設計の延長

写真は作品の鑑定書。

斜光45°×半艶で稜線の白を拾い、サムネ(長辺600px)でも主役が先に見えること(第73・83・90回参照)。

背景は無彩色で、出口方向に余白を残すと、画面が呼吸します。
1商品につき、5枚構成が鉄板です。

  • 撮影5点セット
    1. メイン(正面・斜光・主役クローズ)
    2. 斜俯瞰(流れと余白の読み)
    3. ディテール(花芯・境界グラデ・名入れ)
    4. 仕立て(コバ・糸・金具、手に持ったサイズ感)
    5. 物語カット(使用シーン、しかし“物より物語は控えめ”)

5. コピー(商品説明)は“短文×設計意図”

長文は読まれません。30〜60字の一文で“意味”を言い切り、続けて設計の数値で安心させる。
たとえば——「右上がりの蔦で“再出発”。花芯の緩衝1.5mmで静かな誇りを浮かせました。外周2.5mm、影は短浅、境界は曖昧化3列。」
技術を語るのではなく、意図→数字→心地よさの順で。

  • テンプレ
    • 一文キャプション(意味)
    • 仕様(寸法・革厚・糸・金具)
    • 設計意図(余白・骨格・影)
    • ケア(オイル頻度・注意点)
    • 保障(30日調整・名入れポリシー)

6. “作り続けられる”工程設計

商品は均質であることが価値。

端革テスト(第90回参照)を量産前の儀式にし、治具を用意します。
例えば、打刻順のカードベースライン定規外周マスキングテンプレ。これが日による出来のムラを消し、納期の約束を守らせてくれます。

  • ルーティン化の粒度
    • ケーシング→トレース→カット→ベベル→BG→アンティーク→トップ
    • 各工程の乾燥待ちで別個体を回す(タクト化)
    • 「最後の仕上げほど“加えない勇気”」——影は短浅で止める

7. 価格の“腰”を作る:セットと限定

単品で迷われたら、セットが効きます。ウォレット+キーケース、タグ2枚組(ギフト用)。限定色は四半期に1回。レギュラーの設計を崩さず、一点色の差だけで“旬”を出します(第83・92回参照)。
値引きではなく付加で勝つ——これは小さな工房の鉄則です。

  • 付加の例
    • 名入れ無料(頭文字のみ)
    • 保証延長(糸のほつれ30日→90日)
    • ケアカードと次回割引コード(再訪の導線)

8. 受注〜出荷の“体験”を設計する

購入後の連絡・梱包・到着までが商品。

受注メールは納期・名入れ表記・ケアの要点を自動返信。

梱包は再利用しやすい箱と、写真の撮りやすい台紙

到着後に使い始め動画リンクを送ると、レビュー率が跳ね上がります。
クレームを恐れるより、問い合わせのしやすさを見せること。

丁寧な導線は、結果的に問い合わせを減らします。

  • 出荷チェック
    • 名入れスペル・向き(右上がり/可動部回避)
    • コバの毛羽・糸始末・トップのムラ
    • 品質票(担当・日付・推奨ケア)

9. “名入れ”を商品化の軸にする

レタリングは読み>装飾(第87回参照)。

ベースライン/xハイト/傾き±3°のガイドをテンプレ化し、3サイズだけを用意。

可動部・折れ・金具から5–8mm離す(第75回参照)。
名入れは工数の割に価値が伝わりやすい。しかし、可読性が崩れた瞬間に価値がゼロになるので、ガイドと緩衝帯(1–2mm)を死守します。

  • 失敗回避
    • 交差の黒溜まり→白抜け
    • 端末の壁当て→外周2mmを取り戻す
    • 影のやりすぎ→短浅3点以内に戻す

10. レビューと再設計:小さくPDCA

レビューは宝です。不具合は即修正、好評点は言語化して商品説明に反映

サイズ・色・名入れ位置の要望が繰り返されるなら、それはSKUのヒント
写真はA/Bテストを。メイン写真を“正面”と“斜俯瞰”で入れ替え、CTRの高い方を採用。

売れないのは作品ではなく見せ方かもしれません。

  • 反映メモ
    • レビュー頻出語を商品説明の見出し
    • 返品理由は設計/運用/期待値のどれかに分類
    • “期待値のズレ”は写真と一文で解決する

11. ケーススタディ(3例)

A:一輪フローラルのロングウォレット
勝ち筋:短辺×0.62の主花、右上三分割交点、外周2.5mm、緩衝1.5mm。
商品化:色はキャメル/ブラック/ダークグリーンの3色、名入れは3種。
運用:受注〜14日、名入れは1–3日で前倒し可。
結果:一点色=花芯の金を微小で固定し、写真5点でCVR上昇。

B:名入れタグ(和柄サポート)
勝ち筋:クラシック・セリフ、傾き+3°、字間0.3、影は短浅1点。背景に七宝3×3ブロック、交点の白窓。
商品化:2枚セット/5枚セットを追加→ギフト需要に刺さる。
結果:返品ゼロ、レビューは“読みやすい”“上品”が頻出語。

C:バスケット×唐草のミドル
勝ち筋:左1/3バスケット、境界は曖昧化3列、骨格45°上昇。
商品化:握りやすい摩擦×写真映えの軽さ。
結果:崖境界の廃止で「古く見える」指摘が消失、単価維持のまま回転率↑。


12. 7分ドリル(商品化の第一歩)

机の上で今すぐできます。
1分:代表作を一つ選び、“30字キャプション”を書く。
2分:仕様表の下書き(寸法・余白・革厚・糸・金具・納期)。
2分:SKU案“3×3”を決め、迷う人が選びやすい差だけに絞る。
1分:写真5点の構図ラフを描く(斜光45°・出口余白)。
1分:価格の腰(原価+時給+間接+利益)を式に入れて概算。
ここまでで、商品ページの骨格が立ちます。

  • ドリルのキーワード
    • 少色高明度差/一点豪華/余白の設計
    • 読み>装飾/曖昧化3列/短浅影
    • 納期と再現性を“約束”にする

まとめ

商品化は“作品を売る”ことではなく、約束を仕組みで守ることです。

  • 余白と比率を固定して見栄えの再現性を作り、
  • 時間と材料を可視化して健全な値付けを行い、
  • 写真と短文で意図を翻訳し、
  • 名入れや限定で個別の喜びを設計する。
    小さな工房でも、この流れを回せば静かに強いブランドになります。あなたの一作を、続けて届けられる形に変えていきましょう。

注釈

[注1] 値引きは最後の手段:単価は技術の尊厳。値引きよりセット化・限定色・名入れ付加で価値を守るほうが長く続きます。
[注2] 権利配慮:和柄・家紋・ロゴ・キャラは権利が絡む場合あり。伝統文様+自作要素に寄せ、第三者権利物は事前確認(第88・87回参照)。
[注3] 耐久と配置:可動部・金具周りは摩耗・割れが出やすい。主線・渦心・文字脚は5–8mm離し、余白で“逃がす”(第75回参照)。
[注4] 品質の一貫性:同じ型で“今日の機嫌”が出ないよう、治具・打刻順カード・端革テストをルーティン化。
[注5] 写真とレビュー斜光45°×半艶は作品の言語化。レビュー頻出語は商品説明の語彙に即反映(第92回参照)。
[注6] 返品ポリシー:名入れは返品不可が一般的。ただし糸ほつれ・コバ浮きなどは無償調整を明記し、安心を提供。
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完全限定生産 熟練の職人が丁寧に手作業で作成したハンドメイド

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