クロコダイル製品、パイソン製品は現地の工場に直接製作依頼し、熟練の職人が丁寧に手作業で作成したハンドメイド。大量生産では決して真似できない、細部にわたる職人のこだわり。本物を求めるあなたにも手に取っていただきたいと願っています。

【第98回】多色染めで魅せるカービングのカラー表現

はじめに

多色染めは“色を増やす”ではなく、役割を分けて並べる作業です。

主役色・補色・つなぎ色を決め、にじみを止める処理塗る順番を守れば、画面は整理されます。

ここでは、下ごしらえ→配色設計→塗り順→境界処理→アンティーク→トップの順で、フローラル/動物/幾何・和柄までを説明します。

使う色数は“最大でも5色”を上限にし、支配色60%/副次30%/アクセント10%でまとめます。


下ごしらえ:にじみを止めるための準備

まず完全乾燥→軽いならしで毛羽を抑え、端革テストでロット差と希釈率を確認します。

マスキングは外周2〜3mm、金具近傍、可動部から5〜8mmを基本に。白く残したい部位は抵抗剤(レジスト)を薄く仕込み、乾燥→指スリで密着を確認します。

  • 要点(2割の箇条書き)
    • 外周2〜3mmは塗らない帯として先に確保
    • 端革で薄→中→濃の段階テスト
    • 白を残す場所=先にレジストで保護

配色設計:主役・副次・アクセントの役割分担

色を足す前に、主役=最初に見せたい要素を一つ決めます。

次に、その周囲の副次色、最後に視線を止めるアクセント。色同士の“喧嘩”を避けるため、寒暖はどちらか一方に寄せるのが安全です。

  • 目安
    • 60/30/10(支配/副次/アクセント)
    • アクセントは面ではなく点(花芯・瞳・ピリオド)
    • 同系色グラデで“面”、反対色は極小点で“キラッ”

塗り順の原則:明い→暗い、面→線、染→顔料

にじみと濁りは“順番”で防げます。明い色から始め、面(ダイ)→線・点(顔料)の順。

濃い色・顔料は“上に置くもの”と覚えます。

途中で乾燥→指スリを挟むと、次の層が暴れません。

  • 基本手順
    1. 明いダイで面の温度を作る
    2. 中明〜中暗のダイでゾーン分け(花・葉・背景)
    3. アンティーク前の乾燥(にじみ防止)
    4. 顔料で点・稜線(ドライブラシ/白点)
    5. アンティークを線方向拭きで“細い黒”だけ残す
    6. 半艶トップで統一

境界処理:線で止める・段で止める・色で止める

多色は境界が命です。方法は3つ。
(1) 線で止める:カットラインとベベルで“堤防”を作り、染料の移動を止める。
(2) 段で止める:ハーフムーン→ビーディング→薄BGの曖昧化3列で色の勾配を作る。
(3) 色で止める:同系色の明度差で接続し、反対色の直接接触を避ける。

  • 失敗回避
    • 反対色の接触面は白い細帯(0.3〜0.5mm)を残す
    • 境界が“崖”に見えたら3列グラデを追加
    • にじみが出たら乾燥→レジスト→上書きで修復

フローラル:花・葉・背景の3ゾーン配色

花弁は同系色グラデで“面”。葉は花より1段暗く・彩度低め。背景は最も低彩度にして主役が浮く設計に。花芯は明の一点(アイボリー〜金系の極小点)で締めます。

  • 例:キャメル地の一輪
    • 花:ライトタン→ミドルタン(外→内へ薄く)
    • 葉:オリーブ薄→中
    • 背景:グレー寄りの薄ダイ+曖昧化3列
    • アクセント:花芯に極小の明、アンティークは線方向

動物・フィギュア:肌・毛・瞳の“温度差”

肌・毛は面のグラデで質感を出し、瞳は白点で生命を入れる。

口元・首のS字は中明→中暗の帯で流れを示し、線で描きすぎないのがコツ。背景は一段落とす

  • 例:イーグル
    • 体:寒色寄りの中明→中暗グラデ
    • 瞳:黒+白点(極小)
    • 稜線:ドライブラシで明を拾う
    • 仕上げ:半艶トップ→斜光45°で撮影

幾何・和柄:面で埋めず、リズムで見せる

七宝・麻の葉・青海波は1〜2列3×3ブロックで“支え役”に。

全面を濃色で埋めると主役が沈みます。

交点の白窓白い島を残すと、画面が息をします。

  • 例:七宝+フローラル
    • 七宝:低彩度の薄ダイ、交点は
    • フローラル:花に同系グラデ、花芯に一点明
    • 境界:曖昧化3列で自然につなぐ

アンティーク:細い黒だけを残す

多色の上からアンティークを重ねる場合、線方向拭きで“細い黒”だけ残します。

面のベタ黒は禁止。主役周りの緩衝1〜3mmは薄く保ち、色の見えを確保します。

  • 拭きの方向
    • 骨格の入口→出口へ平行
    • 黒溜まりが出たら綿棒で点修正、それでも残るなら希釈で薄めて上書き

トップコート:光の質で色をまとめる

半艶(サテン)は稜線の白と色をどちらも拾えます。

マットは渋いが彩度が落ちやすい。グロスは多色で反射が暴れやすい。

小物は半艶、名入れタグはややマット寄りなど、用途で使い分けます。

  • 注意
    • 薄塗り×複数回で割れ防止
    • 角と可動部はさらに薄く
    • 乾燥中は埃対策に簡易カバー

ケースレシピ(3本)

A:一輪+リーフ(3色+アンティーク)
花=ライト→ミドルタン、葉=オリーブ薄、背景=グレー薄。

花芯にアイボリー点。アンティークは線方向、半艶仕上げ。
狙い:花が先、葉が次、背景は空気。

B:名入れタグ+七宝(2色+一点色)
文字=素地+短浅影。七宝=低彩度ベージュ、交点白。

ピリオドに金の極小点。
狙い:読みを優先し、和柄は支え役。

C:イーグル(寒色グラデ+白点)
体=寒色グラデ、中暗は翼の下だけ。

瞳に白点。稜線はドライブラシ、背景は一段落とす。
狙い:面の温度差で立体、白点で生命。


7分ドリル(端革だけで配色を決める)

1分:支配色・副次色・アクセントを色鉛筆で決める。
2分:端革に明→中→暗の3段グラデを2系統試す。
2分:境界テスト(白い細帯0.3mm/曖昧化3列)。
1分:アンティークの線方向拭きを重ねる。
1分:半艶トップ→600pxサムネで主役が先に見えるか確認。見えなければ、色を3〜4色に削減し、アクセントは一点だけに戻す。

  • 覚え書き
    • 反対色は直接当てない(白帯か同系の橋渡し)
    • 面は染め、点・稜線は塗る
    • 明10%(稜線・白窓・緩衝)を削らない

よくある失敗 → その場で直す

色数が多く騒がしい:色を3〜4色へ削減。アクセントは1点だけ残す。
反対色がにじんだ乾燥→レジスト→上塗り。境界に白帯0.3mmを追加。
主役が沈む:主役周囲の緩衝+0.5mm、背景を1段落とす
アンティークで暗くなった線方向再拭き→希釈アンティークで馴染ませる。
写真で色が死ぬ半艶トップ→斜光45°→無彩色背景で再撮。


まとめ

多色染めは、配色の役割分担境界の管理で整います。

  • 色は支配60/副次30/アクセント10
  • 明→暗、面→線、染→顔料の順。
  • 白帯・曖昧化3列・同系グラデで境界を制御。
  • 仕上げは線方向拭き+半艶トップ
    この基本を守れば、色数を増やしても“うるさくない”画面が作れます。

注釈

[注1] 色数の上限:実務では5色を上限に。支配・副次・アクセントの比率を崩すと視線誘導が弱くなる。
[注2] 反対色の処理:直接接触はにじみと振動の原因。白帯0.3〜0.5mm中間色で緩衝する。
[注3] レジストの活用:白窓・文字・花芯など“明で残したい部位”は先に薄塗り。乾燥→指スリで密着確認。
[注4] アンティークの位置づけ:全体を暗くする用途ではなく、線を読むための影として使う。拭きは線方向が原則。
[注5] トップの選択:半艶は色と稜線が最も安定。グロスは多色で反射が暴れやすい。用途・被写体で使い分ける。

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