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【第96回】カービングの図案に“物語性”を加える|ストーリー性あるレザーデザインとは

はじめに

長く使われる図案は、誰に・どんな場面で・何を伝えたいかが明確です。

感覚で飾るのではなく、一文の意図→骨格→モチーフ(記号)→位置と向き→余白→注記付き下絵の順で設計します。

ここでは抽象表現を避け、短い文・数値・位置で作業を固定します。


一文から始める

最初に30〜60字で一文を書きます。受け手と場面も書き添えます。

制作中に迷ったら、この一文に戻ります。

    • 「新しい職場に行く友人へ。右上がりの導線で前進を示す。」
    • 「還暦のお祝い。菊で長寿、七宝で縁を表す。」
    • 「卒業の記念。蔦で成長、鳥で旅立ちを示す。」

一文を骨格線に変える

入口→停留→出口を一本の線で作ります。

左下→右上の45°、ゆるいS字、または円弧のいずれか。

停留点の周りに緩衝帯1〜3mmのハッチを描き、主役の呼吸を確保します。

写真判定用に、斜光45°の矢印もメモしておきます。

  • 目安
    • ロング(190×95mm):45°骨格が扱いやすい
    • 円形タグ(直径40〜60mm):円弧+抜け窓
    • ベルト(幅38mm):繰り返しの中に出口余白

モチーフ=意味の対応表から選ぶ(2つまで)

意味を説明文で足さずに、モチーフ(記号)で伝える設計にします。選択は主役1+準主役1まで。

  • 対応例
    • 右上がりの蔦:前進/再出発
    • 桜1輪+小葉:門出
    • 菊(花芯小さめ):長寿/敬意
    • 七宝3×3ブロック:縁/つながり(交点の白を残す)
    • イーグルの瞳の白点:守り/決意
    • 青海波1〜2列:落ち着き/安定
    • レタリング頭文字:所有の証/贈り手の署名

位置と向きで意味を固定する

同じモチーフでも配置で印象が変わります。骨格線に沿わせるのが基本です。

  • 財布外装の実例
    • 前進を示す:主役を右上、導線は左下→右上
    • 守りを示す:主役を中央寄り、周囲に七宝3×3
    • 名入れ:右上三分割交点、文字外周1.5〜2mmの緩衝
    • 動物の視線:出口方向へ。瞳の白点は小さく一点

余白で読みやすさを作る

要素を増やす前に、外周2〜3mmの帯と、主役の緩衝1〜3mmを先に確保します。

さらに1〜2mmの白い島を2〜3箇所置き、視線の休み場を作ります。

バスケットや和柄は支え役に回し、境界は曖昧化3列(ハーフムーン薄→ビーディング→薄BG)で段差をならします。

出口側の外周は+0.3〜0.7mm広げます。

  • 置き場所の例
    • 渦の外側に白い島1つ
    • レタリング交差部は白抜け
    • バスケット→唐草の境界外側に極小窓

下絵は「工程の指示書」にする

下絵の余白に、作業指示の短文を書き込みます。感想や比喩は書きません。再現性を優先します。

  • 注記テンプレ
    • 光:左上→右下(斜光45°)
    • 主役輪郭:ダブルカット1箇所のみ
    • 背景:ビーディング→薄BG、濃くしない
    • 影:短浅3点以内、主役の下辺中心
    • 和柄:薄め、3×3ブロック、交点の白を残す
    • レタリング:3ガイド(ベース・xハイト・傾き)、カウンター内浅

ケーススタディ

就職祝い(ロングウォレット)

一文:「前に進む友人へ。右上がりで応援を示す。」
設計:45°骨格。右上三分割交点に主花(短辺×0.62)。花芯の緩衝2mm。渦の外側に白い島1つ
仕上げ:アンティークは線方向拭き。花芯に極小の明色点。外周は2.5mm
効果:サムネ(長辺600px)で右上が先に読める。

還暦祝い(二つ折り)

一文:「長く元気でいてほしい。」
設計:中央やや上に(花芯小さめ)。周囲に七宝3×3、交点の白を残す。出口側外周**+0.5mm**。
仕上げ:色は3以内。主役以外は素材色+アンティーク。
効果:意味を短文で説明しやすい。

卒業記念(名入れタグ)

一文:「ここからは自分の力で歩く。」
設計:頭文字を右上三分割交点。文字外周1.5mm緩衝。左下に蔦の先端を一つ。
仕上げ:影は短浅1点。ピリオドに極小の一点色
効果:小物でも読みやすく、意図が伝わる。


7分ドリル

紙1枚・鉛筆のみ
1分:一文(30〜60字)を書く。
1分:外周2〜3mmと禁則(折れ・金具)を塗る。
2分:骨格一本→停留→緩衝1〜3mm
2分:記号を主役1/準主役1に絞って配置。白い島2つ
1分:注記(光・影・境界・色数)を書く。
最後にスマホで撮り、600pxで主役が先に見えるかを確認。見えない場合は、線を増やさず余白の位置・出口の広さを直します。

  • 確認
    • 主役は一つ
    • 出口側の外周がやや広い
    • 記号の意味が一文と一致

よくある失敗と対処

主役が埋もれる、出口が詰まる、意味が散る——

これらは設計で直せます。色や装飾を増やす前に、下を順に試します。

  • 失敗 → 処方
    • 主役が埋もれる → 緩衝+0.5〜1mm、背景を薄く
    • 出口が詰まる → 外周+0.3〜0.7mm、尾の角度を出口へ
    • 意味が散る → 記号を2つまでに減らす
    • 黒溜まり → 交差に白抜け、影を短浅へ
    • 写真で弱い → 稜線シャープ、色は3以内、斜光45°

まとめ

物語性は気分ではなく手順と数値で作ります。

  1. 30〜60字の一文を決める。
  2. 骨格一本緩衝1〜3mmを確保。
  3. 主役1/準主役1の記号に絞る。
  4. 外周2〜3mm・白い島で読みやすさを作る。
  5. 注記で工程を固定し、写真(斜光45°・600px)で合否を判定。
    この流れを毎回繰り返すと、贈り先にも説明しやすく、写真だけでも内容が伝わる図案になります。

注釈

[注1] 抽象語は制作メモと商品説明に使わず、短文・数値・位置で指示を書く。
[注2] 記号は2つまで。3つ以上は写真だけで伝わりにくい。
[注3] 可動部・金具・コバから5〜8mmは主線や渦心を避ける。
[注4] 色は3以内。一点色は主役に極小で。広い塗りは避ける。
[注5] 仕上げ判定は斜光45°×半艶の写真を600pxで確認。主役→出口が見えない場合は、余白と配置を先に修正する。

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