はじめに
革だけで完結させず、木や布を味方にすると、世界が一気に広がります。
木は面で受ける剛性と温度、布は軽さと可動性を持っています。
革の役割は、段差・光・触感で主役を作ること。
木は土台、布は動線。三者の役割が混ざると、途端に雑然と見えるので、あらかじめ役割を分けてから図案を置きます。
ここでは、木工と布を合わせる基本設計、接合と伸縮対策、色と仕上げ、そして机上の空論で終わらない具体案をまとめました。
- 要点
- 革は主役の点と線、木は面、布は動線と収納
- 先に禁則と明帯を描き、収縮の逃げ道を確保
- 接着は頼り切らず、機械留めや溝止めを併用する
設計の原則:三者三様の「動き」を合わせる
革は湿度で伸び、木は湿度で幅方向に膨張し、布は縫い収まりで形が決まります。
三者の動き方が違うと、境界が崖に見えたり、歪みが生まれます。
最初にやるのは「触ってはいけない場所」を描くこと。外周は明帯、接合部は禁則、開口や可動部は段差を浅く。これだけで事故が激減します。
- 基本ルール
- 外周の明帯:2〜3mm(出口側は0.3〜0.7mm広く)
- 接合部の禁則:5〜8mm(深い段差と濃色を避ける)
- 主役外周の禁止帯:1.5〜2mm(刻印・濃色・金具を入れない)
木×革の相性を上げる下ごしらえ
木は面で力を受け、ネジやダボ、溝加工で革と合わせると安定します。
仕上げ前の木粉を革が吸い込むと、アンティークが濁るので、木側は先に仕上げてから合わせるのが鉄則です。
色は木口と柾目で吸いが違うため、オイルは薄く、ウレタントップは半艶に統一。革は線方向拭きで細い黒を残し、明と段差で主役を作ります。
- 小さな規則
- 木は先仕上げ→革を後から載せる
- 面で受ける溝止めを作り、接着は補助に回す
- 木ネジは座繰り+座金で面圧を分散
布×革の相性を上げる下ごしらえ
布は可動性と軽さが武器。キャンバス、デニム、リネン、ウールフェルトはそれぞれ伸縮が違います。先に地直し(洗いorスチーム)で縮みを落とし、芯材で平面を作ると、カービングの段差がきれいに読めます。
濃色の布は色移り、薄色の布はアンティークの移りに注意。境界に白帯0.3〜0.5mmを残すと濁りが出にくい。
- 小さな規則
- 地直し→芯材→仮接着→本縫いの順
- 折り返しの厚みは段差の外側に逃がす
- 濃色布×革はトップを先に、境界は白帯で緩衝
接合方式の選び分け(木・布共通)
- 面で受ける:溝止め(溝3.0〜3.5mm幅×1.0〜1.5mm深)、袋縫いで差し込み
- 線で受ける:カンナ溝+レース(幅2mm、ピッチ×2.0)、バイアス見返し
- 点で受ける:真鍮釘、カシメ、ねじ式スタッズ(裏に座金)
接着は「位置決め+湿度変化の緩衝」が役目。最終強度は面・線・点の機械的固定で取ります。強度が欲しい位置ほど、接着単独にしないこと。
作品が“静かに強く”見える配置のコツ
木面に対して革は小さく、布面に対して革は要点を絞ると落ち着きます。
主役は一点、準主役は一点まで。バスケットや幾何は支え役に回し、曖昧化三列(ハーフムーン弱→ビーディング→薄い背景)で段差の崖を階調にします。
- 目盛りの感覚
- 革の占有面積:木の20〜40%、布の10〜30%
- 金具は一点で止める(視線が散らない)
- 多色を避け、支配60・副次30・アクセント10に収める
木×革の作例(数値つき)
A:ウッドトレイ+フローラルパネル
設計:栗材トレイ 240×120×H20、内寸に革パネル 200×80×t2.0。外周3mm明帯、主花は右上三分割交点。
木側:オイル1回→半艶トップ。内底に3.2mm幅×1.2mm深の溝を四辺に。
革側:浅カット→ベベル→ハーフムーン弱→薄BG→線方向アンティーク→半艶。四辺に0.8mm段落ち。
接合:溝へ落とし込み+薄接着。角は白帯0.3mmを残し、曖昧化三列で縁を馴染ませる。
狙い:木が面、革が主役の点。持ち上げても段差が指に当たらない。
B:木箱の蓋インレイ×レタリング
設計:蓋 150×90、楢材。文字外周1.8mm禁止帯、外周2.5mm明帯。
木側:蓋に浅い彫り込み 2.2mm深で“盆”を作る。角はR3。
革側:三つのガイド→主線細深→交差白抜き→短浅影1点。
接合:盆の内寸に0.3〜0.5mmのクリアランス。四辺に薄く接着→裏から木ねじ2本を対角で座繰り止め。
狙い:読みを守り、木の面で落ち着かせる。温湿変化で革が動いても、盆が吸収。
C:スツール座面パッチ×バスケット
設計:座面300丸、革のパッチ 95角×4枚。45度バスケットを外周2列だけ。
木側:座面中央に薄い面落ち、接着位置を示すガイド円。
革側:バスケットはBPM一定→角は回し→半目終端→曖昧化。
接合:裏から隠しビス+薄接着。角に白窓1mmを残す。
狙い:規則の面は木へ、革は点と縁の起伏で静かに主張。
布×革の作例(数値つき)
D:帆布トートの外ポケット×フローラル
設計:10号帆布トート本体 380×320、革ポケット 180×140。外周3mm明帯、渦外に白島1.5mm。
布側:地直し→薄芯を全面に。ポケット位置にコバステッチのガイド。
革側:浅カット→ベベル→ハーフムーン弱→薄BG→線方向拭き→半艶。
接合:仮接着→本縫い 8〜9針/インチ。角はバーテックスタックではなく大Rでストレスを逃がす。
狙い:布は面で収納、革は点主役で視線を止める。重量増を避けつつ存在感。
E:デニム×革タグ(レタリング)
設計:デニムカバー 300×200、革タグ 60×20。文字外周1.8mm禁止帯。
布側:折り返しの厚みはタグの外側へ逃がす。
革側:三ガイド→主線細深→交差白抜き→ピリオドに極小の明。
接合:仮接着→2本針で縫い止め。角だけ斜め落とし。
狙い:読み最優先。布の縫い目が文字に干渉しない配置。
F:ウールフェルト×コインケース見返し
設計:フェルトt3.0を見返しに、外装革は2.2mm。
布側:切り口が伸びるので、見返しは広めに取り、縮みで整える。
革側:ベベル浅→薄BG→線方向拭き。段差は可動部から5〜8mm避ける。
接合:周囲にぐるりと縫い、角は大R。
狙い:フェルトでクッション性と静音、革で主役の表情。
仕上げと色:三者の艶を揃える
艶の混在は写真で破綻します。木・革・布の艶がバラバラなら、いちばん支配面積の広い素材に寄せて半艶に統一。
多色はにじみやすいので、布が濃い時は革のアンティークを線方向で軽く、布が薄い時は革の濃色を少し引く。反対色は白帯0.3〜0.5mmで分離すると濁りません。
- ミニチェック
- 600pxサムネで主役→出口の順に読めるか
- 光が暴れるなら角度を10度単位で調整
- 金具の数は最小限。光点は二〜三で止める
7分ドリル(端材で“境界だけ”先に合格)
1分:木端材・布端材・革端革を並べ、禁則と明帯をペンで描く。
2分:革に浅カット→ベベル→ハーフムーン弱→薄BG。
2分:木に3.2mm溝を切り、革片を差し込んで曖昧化三列で縁を馴染ませる。布には薄芯を貼って革片を仮接着→8針/インチで縫う。
1分:線方向拭き→半艶トップで艶を揃える。
1分:斜光45度で撮影し、サムネで主役が最初に読めるかを確認。読めなければ、革の占有面積を一段減らし、白帯を+0.5mm。
- 覚え書き
- 接着は補助、強度は面・線・点で取る
- 段差は可動部と接合部から離す
- 明10%(外周・白島・緩衝)を削らない
よくある失敗とその場の直し方
木が反って浮いた:溝を0.1〜0.2mm深く、座金で面圧にし、接着は薄く塗り直す。
布が波打つ:地直し不足。芯を一段強めにし、縫い目ピッチを8→9に上げて均す。
革の主役が沈む:緩衝+0.5〜1mm、幾何やバスケットは一列削減、短浅影を境界側に一点だけ。
色が濁る:境界に白帯0.3〜0.5mmを挿入、アンティークは線方向で拭き戻す。
写真でギラつく:半艶で艶統一、背景は無彩色、光は斜光45度固定。
- 即効処方
- 役割を再分配(木=面、布=動線、革=主役)
- 素材の艶を揃え、光点を絞る
- サムネで読めなければ設計に戻る
まとめ
三者を混ぜるのではなく、分担させる。木は面、布は動線、革は主役。禁則と明帯で境界を守り、接合は面・線・点で機械的に支える。
色は白帯で緩衝し、艶は半艶に統一。
最後にサムネで主役が先に読めるかを判定する。
この順を守れば、革の陰影が木の静けさと布の軽さに乗り、作品は際立ちます。
注釈
[注1] 寸法はベジタブルタンニン1.8〜2.5mm厚、木は含水率10〜12%程度、布は地直し済みを想定。硬い革や未乾燥木材では禁則や明帯を0.3〜0.5mm広げる。[注2] 接着は最終強度を担わない。溝止め・縫い・ビス・カシメなどの機械要素で荷重を受ける設計にする。
[注3] 白帯0.3〜0.5mmは緩衝帯。反対色の濁りや木粉・布毛羽の混入によるにごりを抑え、読みを守る。
[注4] 仕上げの艶は半艶を標準に。艶の混在は写真で情報が飛ぶ。
[注5] 最終判定は斜光45度・無彩背景・600pxサムネ。主役→出口の順に読めなければ、素材配分と境界処理をやり直す。
