はじめに
革の起伏と金属の反射は、性質が真逆です。
だからこそ噛み合うと強い。
鍵は三つ。金属は点や線で置き、革の立体は面で見せる。
固定方法と防錆を最初に決め、作業の順番を崩さない。
境界は曖昧化で段差を階調に変える。
ここでは、真鍮・シルバー・銅の小パーツやインレイ、コンチョ、ホットスタンプを、フローラルやレタリング、バスケットと自然に接続させる手順を、数値と作例で説明します。
- 要点
- 金属は点と細線で、革は面と段差で役割分担
- 先に固定方法と防錆を決め、開口やビス位置の禁則を描く
- ベベル→金属位置決め→下穴→半仕上げ→固定→仕上げの順
素材と相性の基礎
小物では真鍮が扱いやすく、シルバーは白く締まる、銅は暖色の点で効きます。
いずれも革との膨張差と電食に注意。
裏面に絶縁の薄膜を作り、汗や湿気の多い可動部へは金属を近づけないだけで失敗が減ります。
- 素材別の使いどころ
- 真鍮:ラインインレイ、細帯、ホック周りの小円
- シルバー:小さなコンチョ、頭文字の外周リング
- 銅:花芯の点、タグの角の鋲、エンブレム
設計思想と禁則
図案の骨格を引いたら、金属位置とネジ・カシメの通り道を先に決めます。
外周は明帯2〜3mm、出口側は0.3〜0.7mm広く。
金具や折れ線の周囲5〜8mmは、深い段差と濃色を避ける禁則帯に。
主役の外周1.5〜2mmは刻印・濃色・金属禁則です。
- 手順の型
- 骨格線と主役の決定
- 金属の点・線・円の仮配置(紙片やプラ板で実寸)
- 禁則と下穴位置をペンで明記
- 半仕上げまで刻む
- 金属固定→仕上げ→色→線方向拭き→半艶トップ
固定方法の選び分け
ビス、カシメ、リベット、縫い留め、接着+溝止めの五択を基本に、厚みと用途で選びます。負荷がかかる位置では、接着単独は使いません。
- 目安
- 小円やプレート:中空リベット又はねじ式スタッズ(裏に座金)
- 細帯インレイ:溝切り+接着+両端をカシメで機械止め
- コンチョ:ねじ式。裏革で逃がし座を作り、頭が肌に触れないよう処理
下地と防錆
固定の前に、革側は染色とアンティークを線方向に拭いて地を作り、完全乾燥後に薄いレジストで固定。
金属側は脱脂→薄膜保護(ワックスやクリア)。
裏面は接触面だけでも薄くコートして電食を抑えます。
- 小さな規則
- 金属の縁は微小Rで角を落とす
- 裏面のねじ座は床革の座金で面圧を分散
- 汗が当たる面へは銅の面積を広げない
置き方の基本
金属は画面を支配しやすいので、面の使用は最小限。
点、細線、細い輪に限定し、彫りの稜線が主役になるように設計します。
反対色の金属は白帯0.3〜0.5mmで緩衝。
金属の外周に曖昧化三列を入れると、崖感が消えます。
- 曖昧化三列の順
ハーフムーン弱→ビーディング→薄い背景
金属縁から外へ0.8〜1.5mmの範囲で小さく
ホットスタンプとカービングの共存
焼き印は熱で繊維が沈み、アンティークの乗りも変わります。
先にスタンプを打ち、沈んだ帯の外側にカービングを寄せ、影は短浅一〜二点に。
アンティークは線方向で軽く、炭化帯を黒く塗り込まないのがコツ。
作例集(数値入りでそのまま使える)
A:ロングウォレット|唐草×真鍮ラインインレイ
設計:外周3mm明帯。
右上三分割交点に主花。
真鍮0.6×2.0mm角棒を、骨格線に沿って70mmだけ細帯インレイ。
工程:溝切り1.9〜2.0mm幅×深さ0.8mm→接着→端を1.5mmピンでカシメ止め→曖昧化三列→線方向拭き→半艶。
狙い:金属は細い導線、主役は花。白帯0.3mmで金属と花を分離。
注意:角で折れやすいので微小Rで曲げ、無理はしない。
B:二つ折り|シルバーコンチョ×バスケット
設計:外周2.5mm明帯、背側にコンチョ径18mm。文字外周1.8mmは禁止帯。
工程:ベベル→45度バスケットはBPM一定→コンチョ位置に下穴→ねじ座を床革で面座に→取り付け→半目終端→曖昧化→線方向拭き→半艶。
狙い:読みを守り、金属は一点で止める。背中側に置き、手触りと厚みの違和感を隠す。
C:キーケース|銅プレート小角×レタリング
設計:幅55×全長100、外周3mm明帯。銅プレート10×18×t1.0mmを角Rで。
工程:脱脂→角R0.5mm→薄クリア→二箇所カシメ。文字は三つのガイドで主線細深、交差白抜き。アンティークは線方向。
狙い:暖色の点で止める。プレート周りは曖昧化三列で柔らかく。
注意:金属周り5〜8mmは濃色を避け、汗での変色を抑える。
D:名刺入れ|頭文字の真鍮リング×七宝一列
設計:外装110×75。頭文字を右上。外側に七宝一列、交点は白窓。文字外周1.8mm禁止帯。
工程:真鍮ワイヤーφ0.8mmで楕円リングを作成→溝切り0.9mm→接着→端を裏で折り返し止め→曖昧化→線方向拭き→半艶。
狙い:リングは光の輪。七宝は低彩度・浅打ちで空気に回す。
刻印・彫金の接続を美しく見せる三手
一つ目は半目。金属や刻印の終端を硬く切らず、半目で密度を落とす。
二つ目は曖昧化三列。金属縁から外へ小さく三列で段差を階調に。
三つ目は短浅影を一点だけ境界側へ。
これで境界が自然につながります。
カラールールと反射管理
多色に金属を足すと少し賑々しくなります。
支配60・副次30・アクセント10の枠を崩さず、アクセントのうち2〜3%を金属に置き換える感覚に。トップは半艶で艶を統一。グロスは反射が暴れやすい。
撮影は斜光45度、600pxサムネで主役が最初に読めるか確認します。
メンテと長期安定
真鍮と銅は経年で落ち着くが、汗と湿気で一気に黒くなる。
出荷前に薄ワックスを入れ、説明書に拭き方を一行添えます。
ねじ式は半年に一度の増し締めを案内。
裏の座金が緩むと金属が回って革を削るので、点検をセットで伝えると信頼が上がります。
7分ドリル 小片で融合だけ先に検証
1分:端革に骨格線を引き、白帯0.3mmで金属の仮位置を鉛筆で描く。
2分:溝切り→真鍮線を仮置き→接着無しで当たりを見る。
2分:ハーフムーン弱→ビーディング→薄BGで曖昧化三列。
1分:短浅影を境界側に一点だけ。
1分:斜光45度で撮影し、600pxサムネで主役が先に読めるか確認。過剰なら、金属の長さを三割短縮、もしくは金属を点だけに。
- 覚え書き
- 金属は点と細線、革は面
- 禁則を先に描く
- 仕上げ艶は半艶で統一
よくある失敗とその場の直し方
金属が浮く:溝が浅いか接着過多。
溝を0.1〜0.2mm深く、接着は薄く塗り直す。
端は機械止めで逃げを作る。
境界が崖:半目終端→曖昧化三列→短浅影一点で階調化。
青緑のにじみ:銅の面積過多。裏面に薄膜保護、表は点使用へ縮小。
主役が沈む:緩衝+0.5〜1mm、金属を短く、刻印列を一列削減。
写真でギラつく:角度を10度単位で調整、半艶に統一、金属は点光二〜三点以内。
- 即効処方
- 金属面積を半分に
- 反対色は白帯0.3〜0.5mmで分離
- 600pxサムネで読めなければ設計に戻る
まとめ
彫金・刻印の融合は、役割分担と順番で決まります。
金属は点と細線で視線を止め、革は面と段差で立体を作る。
固定方法と防錆を前倒しで決め、半仕上げ→固定→仕上げの順を守る。
境界は半目と曖昧化三列と短浅影で自然につなぐ。
これだけで、金属の光と革の陰影がぶつからず、互いを引き立て合います。
注釈
[注1] 寸法と厚みはベジタブルタンニン2.0〜2.5mm厚を想定。硬い個体では禁則や白帯を0.3〜0.5mm広げる。[注2] 電食対策として、金属裏面に薄い絶縁膜(ワックスやクリア)を推奨。汗の多い用途では銅の面積を減らす。
[注3] 曖昧化三列はハーフムーン弱→ビーディング→薄BGの順。金属縁から外へ0.8〜1.5mmで小さく掛ける。
[注4] 仕上げ艶は半艶で統一。グロスは反射が暴れやすく、サムネイルで情報が飛ぶ。
[注5] コンチョやビスは裏に座金を入れ、面圧で受ける。半年ごとの増し締めを案内すると実用が安定する。
