クロコダイル製品、パイソン製品は現地の工場に直接製作依頼し、熟練の職人が丁寧に手作業で作成したハンドメイド。大量生産では決して真似できない、細部にわたる職人のこだわり。本物を求めるあなたにも手に取っていただきたいと願っています。

第73回:レザーカービングを立体的に見せるための陰影テクニック5選

はじめに

カービングの立体感は、道具の数や複雑な図案よりも、陰影の設計と運用で決まります。陰影とは「どこを沈め、どこを起こし、どの方向へ濃淡を流すか」の意思表示です。本稿では、作品写真でも実物でも“立って見える”ための核となるテクニックを5つに厳選。各テクニックに「原理→実装手順→よくある失敗→即時対処→恒久対策」を付け、現場の再現性を高めます。


テクニック1:外深・内浅ベベリングで“輪郭に壁”を作る

原理:輪郭の“外側”を深く、内側を浅く沈めると、外周に光の当たる稜線が立ち、視覚上の段差が倍増します。カウンター(a、e、oの内側)や花弁の内曲線を守り、黒豆化を回避できるのも利点です。
実装手順:1) スーベルナイフで均一カット→2) ベベラーを外側45°寄りに立て、1/4ピッチで重ね打ち→3) 内側は角度を寝かせて“面”に逃がす→4) 端はモデラーで稜線を撫で、光を通す面を整える。
失敗と対処:内側を深くし過ぎて黒く潰れたら、モデラースプーンで軽く起こし、アンティークは薄層に変更。ギザはステップ短縮と上塗り打刻で均す。
恒久対策:設計段階で「外深・内浅」を図面にメモし、ベベリングの“思い込み”を排除。BPMを80〜100に固定し、パルスの均一化で段差の粒度を揃える。


テクニック2:境界1列目“弱→中→既定”で空気をつくる

原理:主役と背景の境界を、いきなり深く沈めると“崖”になり、光が途切れます。1列目を弱、2列目を中、3列目で既定深度にすると、陰影がグラデーションで繋がり、空気の層が生まれます。
実装手順:1) ビーディングまたは薄いバックグラウンドで境界の目印→2) 1列目は“触れる程度”→3) 2列目で半分の強度→4) 3列目で目的深度→5) 馬毛ブラシで粉っぽさを均す。
失敗と対処:境界が暗く濁ったら、レジストを境界より“内側寄り”に追加し、次回から拭き取りは必ず線方向へ。崖になったら、カモフラージュ刻印で点密度を重ね、面密度への移行を作る。
恒久対策:テンプレ図案を“境界曖昧化版/硬化版”の2種で保存し、作品の文脈に応じて選択。曖昧化は柔らかい、硬化は建築的でモダン。


テクニック3:光源の方向を固定し、ドロップシャドウを最小限で効かせる

原理:光源が左上で一定なら、影の向きは右下に統一され、脳が立体を読みやすくなります。影は“長く深く”ではなく、“短く浅く”が基本。主線より弱い影で、主役を曖昧にしないことが重要です。
実装手順:1) 図案に“←光”の矢印を明記→2) 影を入れるエッジを3箇所までに限定→3) ベベラーを軽く寝かせ、起点は濃、すぐにフェードアウト→4) 仕上げで半艶トップを選び、稜線のハイライトを拾わせる。
失敗と対処:影を多用すると全体が黒ずむ。影は“焦点の反対側”だけに残し、他はモデラーで均して薄める。写真で影が飛ぶ場合は、光を45°斜光にし、被写体とライトの距離を一定化。
恒久対策:撮影と仕上げを“設計の延長”に置く。半艶は細線が消えにくく、EC掲載での視認性が安定する。


テクニック4:アンティークは“線方向拭き”+選択レジストで焦点化

原理:アンティークは谷に残る色で陰影差を翻訳します。円拭きは谷から色を引き上げムラの原因。線方向へ一方通行で拭けば、溝に色が残り、山は起きます。焦点(花芯・瞳・ロゴ交点)は選択レジストで明度を1段高く確保。
実装手順:1) レジスト薄2回+焦点局所にもう1回→2) アンティークを“山が濡れて見える程度”に塗布→3) 線方向へ拭き取り→4) 馬毛ブラシ→5) 必要なら薄層を重ねる“二段アンティーク”。
失敗と対処:全体が暗く濁ったら、乾燥後にドライブラシでハイライトを起こす。拭きすぎたら、薄層で再塗布し、谷だけ残す。
恒久対策:端革で“希釈率×拭き秒数”のテーブルを作り、季節・革質ごとに最適条件を記録。


テクニック5:線・面・点の配合で“密度の勾配”を設計する

原理:立体感は段差だけでなく、粒の形で伝わります。線(カット、細枝)、面(広面ベベリング)、点(カモフラージュ刻印)の密度を配合し、焦点に向かって濃度が高まる勾配を作れば、視線は自然と主役で止まります。
実装手順:1) 主役周りは線+面を高密度→2) 外縁は点密度に切り替え、空気を残す→3) 余白帯1.5〜4mmは“触らない”で光を逃がす→4) 仕上げの半艶で稜線の明暗を明瞭化。
失敗と対処:粒が混線して“砂目”になったら、点密度を一段減らす。全体が軽く見えるときは、焦点の線を“細×深”へ更新。
恒久対策:図案段階で“線・面・点”を色分けし、6:3:1(主役:準主役:呼吸)の配合比を初期値に。


実践ワークフロー(陰影だけで仕上がりを底上げする)

  1. 図案に光源と焦点を明記(←光、焦点◎)→2) 外深・内浅のルールを各ブロックに書き込む→3) 境界1列目“弱→中→既定”→4) 線方向拭きを前提に、アンティークの残し位置を事前設計→5) 半艶トップで稜線を拾う。

失敗あるある→即時対処→恒久対策(早見表)

  • 全体が暗い:拭きすぎ修正ではなく、ドライブラシで山を起こす→次回は焦点へ選択レジスト。
  • 輪郭がぼやける:外側の段差が浅い→外深の追い打ち→恒久的に“外深・内浅”の指示書を作成。
  • 影がうるさい:影点が多い→3箇所までに削減、短く浅く。
  • 写真で立体が消える:鏡面トップで映り込み→半艶へ。斜光45°で撮影セットを固定。

練習メニュー(15分×5日で効く)

  • 線のリズム:直線20mm×10(速い細線/遅い太線の切替)
  • 外深・内浅:同一リーフで外側深、内側浅の段差比較×5
  • 境界グラデ:“弱→中→既定”の3列を5セット
  • 影の最小化:右下だけ短い影を入れる練習×5
  • アンティークの線方向拭き:薄層×2で谷残しの再現×3

ケーススタディ(短編3)

A:ロングウォレットの主役花

状況:右上に大輪1、左下に蔓。
処方:花芯周りは細×深で焦点化、外縁へ向かうほど点密度へ移行。境界は曖昧化で空気を挟み、アンティークは花芯から外へ線方向に拭く。半艶トップで稜線を拾い、写真は斜光45°で撮る。

B:ベルトの連続バスケット

状況:38mm幅、45°格子。
処方:端の半マスは意図として統一し、ボーダーで硬化。アンティークは織方向へ強拭き、影は短く浅く。光源は左上固定。

C:円形メダリオン+レタリング

状況:円周に“CRAFT”。
処方:カウンターを守るため内浅、外深。ドロップシャドウは右下へ短く。アンティークは載せず拭うで清潔に。トップは半艶、撮影は中明度背景。


よくある質問(FAQ)

Q1. 影が弱いと立体に見えません
A. 影は長さではなく位置と対比が肝心。焦点の反対側にだけ短く浅く置き、外深・内浅で稜線の明部を増やしてください。

Q2. アンティークで濁ります
A. レジスト不足と円拭きが主因。選択レジストを焦点に追加し、線方向拭きだけに統一。端革で“希釈×秒数”を事前決定しましょう。

Q3. 細線が写真で消えます
A. 鏡面トップの映り込みが原因。半艶へ変更し、光は斜光45°、カメラはやや俯瞰で稜線を拾います。

Q4. バックグラウンドの粒が粗いです
A. 同一テンポでのならし打ちと、境界1列目の弱→中→既定を徹底。点密度を面密度へスムーズに移行させます。


撮影セットの標準化(見せ切るための数値)

  • 光源:色温度5000〜5600K、CRI90以上、距離30〜45cm、被写体の左前45°
  • 背景:中明度グレーの無地。艶や柄はNG。
  • カメラ:スマホ可、露出はややマイナス、焦点は主役の稜線へ。
  • 仕上げ:半艶トップ後に撮影。汚れ・埃は馬毛ブラシで除去。

QCチェックリスト(陰影版)

  • 光源方向は左上固定、影は右下に統一されているか。
  • 外深・内浅が守られ、カウンターが潰れていないか。
  • 境界1列目が弱→中→既定で勾配になっているか。
  • 影は3箇所以内、短く浅く配置されているか。
  • アンティークは線方向へ拭き、谷にだけ残っているか。
  • 点密度→面密度への移行が滑らかで“砂目”になっていないか。
  • 余白帯(1.5〜4mm)が清潔に保たれているか。
  • 仕上げは半艶で稜線が拾えているか。
  • 写真は斜光45°、中明度背景、反射の破綻なし。
  • 作品の入口→停留→回遊の動線が一本で説明できるか。

用語ミニ辞典

  • 外深・内浅:輪郭外の段差を深く、内側は浅くして稜線の明部を増やす基本設計。
  • 線方向拭き:アンティークの拭き取りを線の流れに合わせ一方向で行う方法。
  • 曖昧化/硬化:境界を点密度でやわらかく繋ぐ(曖昧化)/ボーダーやV溝で硬く区切る(硬化)。
  • ドロップシャドウ:主線の反対側に置く最小限の陰。主線より浅く短く。
  • 半艶トップ:段差の拾いに優れ、細線が写真で消えにくい標準仕上げ。※※※

まとめ

陰影は“彫刻情報の翻訳装置”です。外深・内浅で輪郭に壁を作り、境界1列目の勾配で空気を通し、光源を固定して影は最小限、アンティークは線方向拭きで焦点化、さらに線・面・点の配合で密度勾配を設計する——この5点をワークフローに固定化すれば、同じ図案でも立体感の格が一段上がります。撮影と仕上げ(半艶)まで含めて“見せ切る”ことが、完成度を決める最後の一押しです。


注釈

[注1] 含水は“カット=潤い/ベベリング=やや戻し”が再現性高い定石。
[注2] 半艶トップは段差の拾いがよく、細線が写真で消えにくい。
[注3] 6:3:1の比率は初期値。作品の用途やサイズで適宜調整。

参考文献

  • Al Stohlman, The Art of Leather Carving. Tandy Leather, 1985.
  • Al Stohlman, Figure Carving Finesse. Tandy Leather, 1979.
  • Tony Laier, Leathercraft Tools: How to Use Them, How to Sharpen Them. Tandy Leather, 2003.
  • Bruce Grant, Leatherwork Manual. Cornell Maritime Press, 1972.
  • 西田耕三『レザーカービングの技法』誠文堂新光社, 2008.

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