クロコダイル製品、パイソン製品は現地の工場に直接製作依頼し、熟練の職人が丁寧に手作業で作成したハンドメイド。大量生産では決して真似できない、細部にわたる職人のこだわり。本物を求めるあなたにも手に取っていただきたいと願っています。
カービングは模様に立体感と陰影があり、時間とともに味が増します。

【第91回】初心者でもできるカービング図案の作り方

はじめに

「図案はセンスがないと無理」——よく聞きますが、誤解です。

図案は工程で作れます。

今回は、初めてでも“迷わず描ける”ように、言葉→骨格→形→余白→清書の5段で進めます。

道具は鉛筆・消しゴム・コピー用紙・トレースフィルムだけ。

大事なのは、上手く描くことより迷う時間をなくす段取りです。

語りで手を引きつつ、要所は箇条書きで“止め”ます。


1. 言葉から始める(0分目)

鉛筆を持つ前に、一行テーマを書いてください。

例:「上向き」「守る強さ」「静かな誇り」。

その横に、誰に・どこで使うかも一行。

長財布か、二つ折りか、キータグか。

使う相手・向き・擦れやすい角——すべてが図案の仕様です。

ここが曖昧なまま線に入ると、必ずどこかで“帳尻合わせ”が必要になり、初心者ほどそこで躓きます。

  • 0分目メモ
    • テーマ(一行)/用途・サイズ
    • 受け手の年齢や好み/避けたいモチーフ
    • 禁則域(縫い代・折れ線・金具・名入れ位置)

2. “舞台”を先に描く(5分目)

紙に外形を描き、外周余白帯(1.5〜3mm)を斜線で塗って“彫らない帯”を宣言。

折れ線やファスナー角から5〜8mmのバッファも薄く塗る。

舞台が決まれば、線は暴れません。さらに写真の光(斜光45°)の矢印を左上から右下へ引いておくと、のちの陰影判断がブレません。

  • 舞台づくりのコツ
    • ロング:外周2〜3mm/タグ:1.5〜2mm
    • 名入れ位置は先に箱で確保
    • “禁止マーク”を描いておくと、手が勝手に止まる

3. 骨格は一筆書き(10分目)

いきなり花や葉に行かず、導線=骨格を一本

S字か、左下→右上45°か、円弧か。口に出して「入口→停留→回遊→出口」と言えるまで線を整えます。ここで緩衝帯(主役外周1〜3mm)をハッチングで描き、主役の周りに“空気”を用意。

これだけで、8割勝っています。

  • 骨格ミニルール
    • 入口は左下寄り、出口は右上の外周へ
    • 停留=コントラストが交差する位置(明暗×細太×粗密)
    • 緩衝帯は後から削られやすいので、先に太めに描く

4. 形を“配役”で置く(20分目)

主役・準主役・小アクセントの60:30:10で面積(または視線滞在時間)を割り振ります。

フローラルなら花弁の三拍子を62/38/24で。

レタリングが主役なら、ベースライン・xハイト・傾きガイドの3本だけに絞る。

ここは数値で決める勇気が肝です。

  • 配役の指標
    • 小(10%)は出口手前:“余韻”を作る
    • 花芯は花径の0.18〜0.22(上品の目安)
    • レタリング字間=xハイトの0.25〜0.35

5. “余白の島”を先に確保(25分目)

埋めたくなる気持ちを、先に止めます。

渦の外周、葉先の延長、境界の角に1〜2mmの白い島を三つだけ置く。

これが休符になって、のっぺりが消えます。

図案に飽きが来にくくなるうえ、写真のサムネで主役が読みやすくなります。

  • 置き場所の例
    • 渦の外側に一窓だけ
    • バスケット→唐草の境界外側に極小窓
    • レタリングの交差部は白抜けで黒溜まり回避

6. 紙→トレース→革の三段変換(30分目)

紙ラフが決まったら、トレースフィルムへ“機能線”だけ清書します。

ガイドは3本まで(骨格/余白/ベースライン等)。

角丸の半径やセリフの太さ、主線の細太を欄外に数字でメモ

革の上では考えられません。メモが未来の自分への指示になります。

  • 清書の定番メモ
    • 主線0.8、副線0.5、角丸R=文字高の6%
    • 反転/拡大率(例:90%/110%
    • 登録マーク(△)を三隅に

7. 下絵は“工程図”にする(40分目)

下絵の余白に、彫刻語を書き込みます。

主線=細くシャープ、背景=曖昧(ビーディング→薄BG)、段差=外深・内浅、影=短浅3点以内、バスケット境界=曖昧化3列……。

これを描かずに“勘”で行くと、仕上げで迷子になります。

言葉のメモは、迷いを“禁止”する道標です。

  • 注記テンプレ
    • 〈主役輪郭〉ダブルカット一点だけ
    • 〈背景〉薄BGで面を落とす/線方向に拭く
    • 〈影〉左上光源、短浅×3まで

8. 端革テストで“効き”を見る(50分目)

ケーシングを整え、端革に要点だけ刻印して効きを確認。

渦心の白窓、境界のグラデ、レタリングのカウンター(内浅)が効いているか。

効かないものは、仕上げで盛っても復活しません

比率・余白・導線に戻って修正しましょう。

  • テスト観点
    • 主役が最初に見えるか(600pxサムネで確認)
    • 尾は外周へ逃げるか/崖境界が出ていないか
    • 文字は読み>装飾になっているか

9. 初心者がハマりがちな罠 → その場で直す

図案づくりでよく起きる“あるある”は、余白と配分でほぼ解決します。

焦ったら、足すより先にどかす

  • 典型例 → 処方
    • 中央過密・周辺スカスカ → 骨格を斜め一本に引き直し、出口側に白島
    • 主役が2つ → 片方を準主役に格下げ、緩衝帯+0.5〜1mm
    • 外周接触 → 要素を2mm内へ、葉先を外方向へ
    • 黒溜まり → 交差部に白抜け、影は短浅化
    • 色が騒がしい3色以内、主役色は極小面積一点豪華

10. そのまま使える“3テンプレ”

A:右上昇フローラル(ロング)
骨格=左下→右上45°。主花径=短辺の0.62

花弁は62/38/24、花芯小さめ。出口外周を+0.5mm。

B:名入れ+薄柄(ミニマル)
ベースライン水平、xハイト固定。文字外周1.5mm緩衝。

背景に麻の葉1列だけ、境界は曖昧化3列。

C:円形タグの渦+二葉
中心に白窓、葉は0.38/0.24サイズ、角度±5°。

外周1.5〜2mmを清潔に。


11. 7分ドリル(今日の机で)

1分:外形と外周帯を描き、“禁止”を可視化。
2分:骨格一本+緩衝帯。
2分:60/30/10で主役・準主役・小を置く(レタリングは3ガイド)。
1分:白い島を3箇所。
1分:スマホで撮影→600pxサムネで主役→出口が読めるか判定。

  • ドリルの合言葉
    • 先に余白/骨格は一筆/読み>装飾

12. まとめ

初心者の図案は、上手さより段取りで勝てます。

  • 言葉→舞台→骨格→配役→余白→清書→注記→端革の順で、
  • 数値(外周・緩衝・0.62・60/30/10)で迷いを止め、
  • 仕上げで盛らず、比率と余白で整える。
    明日からは“思いつきの線”をやめ、思いつきを段取りに変えるだけで、あなたの図案はすっと気持ちよく見えてきます。

注釈

[注1] “センス”より“順番”:図案は工程です。順番を固定するだけで、上手さがなくても“整った”が獲れます。
[注2] 黄金比は目安:短辺×0.62や62/38/24は“勝ち筋”を作るための起点。製品のロゴ位置・可動部と実物合わせで微調整(第86回参照)。
[注3] 読みの優先:名入れ・ロゴはベースライン/xハイト/カウンターが最優先。影は短浅3点以内(第87回参照)。
[注4] 境界の崖を作らない:バスケットや和柄の端は曖昧化3列で唐草に溶かす(第63・69回参照)。
[注5] 写真で判定斜光45°×半艶で撮り、600pxサムネで主役が先に見えるか。見えない時は線ではなく余白と配分に戻る(第81・83・89・90回参照)。
[注6] 耐久と位置:折れ線・コバ・金具近傍は摩耗しやすい。主線・渦心・文字脚は5〜8mm離す(第75回参照)。

カービングは模様に立体感と陰影があり、時間とともに味が増します。
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