目次
はじめに
「なんとなく“キレイ”に見える作品」には、再現できる型があります。
本稿では“バランス”を目分量ではなく数値と仕組みで扱います。
比率/密度/リズム/対称・非対称/色・質感の配分を、革小物の実寸に落として解説。
仕上げや打刻テクではなく、見え方の設計が主役です。
1. バランスの正体=視覚重量の整流
- 視覚重量=人が“重く見える”要因の総和。面積・コントラスト(明暗/色差)・密度・位置(上/右ほど重い)・意味で決まる。
- 整流=入口→停留→回遊→出口の流れに沿って重みを配ること(第81回の視線設計と連動)。
- 合格ライン:主役>準主役>背景の三段で、60:30:10の重量配分(面積or滞在時間の比率)を守る。
2. 形の比率:黄金比だけに頼らない3解
2-1 60:30:10(形・密度・色の基本配分)
- 大=主役(60%)/中=橋渡し(30%)/小=アクセント(10%)。
- 例:大=花弁群、中=スクロール、小=葉先の反り+一点色。
2-2 三角安定(Triangular Balance)
- 視線が三点を巡回しやすい。主役・準主役・小アクセントで緩い三角形を作ると落ち着く。
- ウォレット表紙:右上(主役)—左中(準)—右下(小)の三角で安定。
2-3 奇数の原則(Rule of Odds)
- 花弁の束・葉の島は3/5/7個など奇数でまとめるとリズムが出る。
- 偶数は左右対称の儀式感に強い(勲章・紋章など)。
3. 密度の配分:詰める・抜くの秤
- 主役周辺=高密(線+面)
- 準主役=中密(面>線)
- 背景=低密(点/平滑)
外周余白帯は1.5〜4mmで固定(汚し禁止)。緩衝帯は主役の外周1〜3mmで密度を一段落とし、“持ち上げる空気”にする。
迷ったら:密度勾配=高→中→低→余白の順に1本のベクトルで並ぶかを確認。
4. 対称・非対称:どちらで“勝つ”かを先に決める
- 厳密対称=儀式・権威・静。バイカーウォレットのエンブレムや家紋的意匠に向く。
- 罠:わずかなズレが“失敗”に見える。ガイドレイヤ必須。
- 非対称(推奨)=動き・物語・軽やかさ。主役を対角に寄せ、小さな返しで均す。
- コツ:小×2=中の法則で“重心ずれ”を補正(小アクセントを2箇所置く)。
5. 色と明暗:小面積×高コントラストが“品”
- 色は3色以内。主役色は一点豪華(10%以内)。
- アンティークは線方向拭きで“細い黒”を残し、主役のレジスト面を明るく保つ。
- 高明度差の小面積は上質、広面積ベタは安っぽく見えやすい。
6. リズム:繰り返し・変化・休止
- 繰り返し:葉の方向・蔓のピッチを等間隔“っぽく”(わずかに揺らす)。
- 変化:3回に1回、角度を±5°・長さ±10%だけ変える。
- 休止:余白島(1〜2mmの小さな空き)でフレーズを区切る。
7. 製品前提のバランス——「実寸×使われ方」で決める
- ウォレット(横長):開いた向きで右上が重く見える。主役は右上寄り、左下に小アクセント。
- ベルト:帯状で“流れ”が勝つ。渦心の間隔を均すより、強弱の波形を作る方が写真で映える。
- キーホルダー・タグ:小物は60:30:10が崩れやすい。10%のアクセント=金具近くに置くと効果的。
8. 失敗サイン → 即修正の手順
- のっぺり:主役の稜線が弱い/背景が硬い → 主役シャープ化+背景曖昧化(ビーディング+薄BG)。
- 重心が迷う:出口側が軽すぎ → 小アクセントを出口の手前に追加。
- 窮屈:外周帯に接触 → 外周2mmを取り戻し、接する葉先は外へ向ける。
- 目移り:主役が複数 → 片方を準主役に格下げ、緩衝帯を増やす。
- 色がうるさい:3色超過 → 主役色1点に絞り、他を素材色+アンティークへ戻す。
9. “測って整える”チェックポイント(数値ガイド)
- 外周余白帯:1.5〜4mm(財布表紙は2〜3mmが基準)。
- 緩衝帯:主役外周1〜3mm(レタリングは内側“内浅”で死守)。
- 角度:主導線45°、副導線は±15°以内。
- 密度比:高:中:低=3:2:1(面積or線本数)。
- アクセント面積:全体の5〜10%。
- 写真判定:サムネ(長辺600px)で**主役が先に“分かる”**こと。
10. 3テンプレ(骨格としてコピペ使用OK)
10-1 右上昇バランス(横長ウォレット)
- ガイド:45°上昇/三分割交点(右上)に主役。
- 配分:60(主)/30(スクロール)/10(葉先+一点色)。
- 仕上げ:主役は明るく、出口側に余白島。
10-2 円形メダリオンの三角安定
- ガイド:円内に逆三角。頂点=花芯、底辺=左右の葉先。
- 配分:60/30/10。小は下辺の葉の返し。
- 仕上げ:中心は過密にし過ぎず、外周に抜け窓。
10-3 ベルトの波形リズム
- ガイド:渦心の間隔を等間隔-5%→+5%で揺らす。
- 配分:区画ごとに60/30/10を維持。
- 仕上げ:交点(停留)だけ細い黒(ダブルカット)を加え、他は面で流す。
11. 7分ミニワーク(現場用)
- 1分:外周帯・三分割・45°ガイドを引く。
- 2分:60/30/10で主役・準主役・小を配置。
- 2分:高→中→低→余白の密度勾配を一本化。
- 2分:アクセント色を1点だけ決め、他は素材色+アンティークに。
12. ケーススタディ
A:長財布外装
- 初稿:中央過密、出口なし。
- 修正:右上昇に主役を移動、左下に小アクセント、外周2.5mmをクリーンに。
- 結果:開いた瞬間に“上向き”の印象へ。
B:ベルト38mm
- 初稿:均一密度で“退屈”。
- 修正:渦心3つを強-中-強の波形、交点だけ細い黒。
- 結果:遠目でもリズムが読める。
C:円形タグ
- 初稿:色が多く散漫。
- 修正:主役色を花芯の小面積に限定、周囲は素材色+アンティーク。
- 結果:品よく締まり、ギフト向けに。
13. まとめ
“バランス”はセンスではなく配分設計。
- 60:30:10で重量を決め、
- 高→中→低→余白の密度勾配を一本化、
- 対称/非対称を選び、小アクセントで微調整、
- 色は小面積×高コントラスト。
この型に沿えば、同じ技量でも気持ちよく整った作品になります。
注釈
[注1] “右上が重い”錯視:横長キャンバスは読み方向(左→右)の影響で右側の視覚重量が増しがち。主役が右上寄りでも、左下の小アクセントで帳尻を合わせると安定します。[注2] 小面積×高コントラストが“上品”に見える理由:人は“コントラスト=重要”と感じます。面積を絞ることで“強調はあるが騒がしくない”状態に。
[注3] 奇数の原則の例外:厳密対称・紋章・レタリングの中央配置では偶数が威厳を生む場合あり。コンセプトに応じて使い分けてください。
[注4] 写真判定のすすめ:斜光45°×半艶で撮り、サムネ(長辺600px)で主役が先に見えるかを確認。見えなければ配分か密度勾配を再調整しましょう。
